「この2、3年の取り組みは、Zendeskを導入したからこそ可能な取り組みであると認識しています。Zendeskは自分たちが目指す施策について裏付けを取りながら、確実に改善を進めていく上で非常に便利なソリューションです。今後も有効活用しながら、地に足のついた改革を一歩一歩進めていきたいと考えています。」
株式会社 大丸松坂屋百貨店
営業本部 MDコンテンツ開発第2部
オンラインストア担当 マネジャー - 株式会社大丸松坂屋百貨店
Zendeskソリューション導入の背景と課題
日本を代表する百貨店の一つである大丸松坂屋百貨店は、2022年8月、大丸松坂屋オンラインストアのコンタクトセンターにZendeskを導入。問い合わせ対応の効率化と品質向上、そしてCSAT(顧客満足度)向上を追求して確かな成果を上げてきた。さらに最近では、プロアクティブメッセージの導入、SMSチャネルの連携、生成AIの活用といった新機軸を通して、意欲的にDXを推進し続けている。
株式会社 大丸松坂屋百貨店 営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当 マネジャーの森 健太郎氏は、一連の改革をこう振り返る。
「きっかけはコロナ禍による大丸松坂屋オンラインストアの利用急増です。その結果、コンタクトセンターには、『繁忙期における問い合わせ対応能力の向上』が明確な課題として存在していました。われわれはこの課題を解決するためにZendesk導入から3年でコンタクトセンターのDX改革を実現する計画を立案し、実行しています。」
(写真右から)
営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当 マネジャー 森 健太郎氏
営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当 木村 崇文氏
Zendesk導入以前のオペレーションは、いかなるものだったのか。詳細を語ってくれたのは、コンタクトセンターを束ねる営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当 の安藤 滋氏である。
「コンタクトセンターでは電話とメールを併せて、1日あたり平常月で40件から100件、繁忙期では1,000件以上のお問い合わせに対応します。かつてはビジネスフォンのチャネルも統合されておらず、メールも一般的なメーラーで返信。対応履歴や引き継ぎもすべて紙で管理していたので作業が煩雑になっていました。お客様との会話にもある程度の時間は必要ですし、通話が終わった後には内容を整理しながら用紙に記入し、対応を判断しなければならず、とにかく時間がかかっていたんです。」
紙をベースにした問い合わせ対応では、ACW(通話応対後の平均終了時間)以外の要素も懸案になっていた。コンタクトセンターではエラーが発生しないよう万全を期していたが、紙の資料では紛失や記入の抜け漏れによる手戻りの危険性が生じてしまう。問い合わせ件数や内容なども表計算ソフトで集計しており、デジタルデータで一覧・ 分析できるようにすることが望まれていた。
営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当 安藤 滋氏
Zendesk が選ばれた理由
このような状況を改善すべく、DX推進部(当時)はCRMソリューションの導入を検討。複数の製品比較を経て、Zendesk の採用を決定する。それと同時に、問い合わせ件数を減らすためのFAQ拡充、チャネルを多様化するためのチャットサービスの導入、電話の着信を管理するAmazon Connectの採用も行われるなど、一気に合理化が図られている。しかし安藤氏によれば、新たな運用システムへの切り替えは予想以上に順調だった。
「当初はオペレーターが手書きでメモを取りながら、Zendeskの操作に徐々に慣れていくのではないかと予想していました。ところが実際にはすぐに新しい方式を習得し、スムーズに業務をこなせるようになりました。それだけZendeskは私たちのニーズにフィットしており、UIも含めて使いやすかったのだと思います。また、しばらく経つとオペレーターの間でも、ちょっとした使い方の工夫を互いに共有するような新しい流れが生まれ、どんどんリテラシーが上がっていきました。個人的には、コンタクトセンターが『静か』になったことにも感銘を受けましたね。以前はひっきりなしに電話が鳴り、対応に追われているような状況でしたが、職場環境が一変しましたから。」
また、課題の確認により、一層Zendeskへの信頼も高まった。森氏は、「最初のステップとしてZendeskから抽出したACWのデータを活用して、これまで抱いていた課題認識が正しいことを確認できました。次に、このデータを基に、電話による問い合わせ件数を減らす施策と、対応能力そのものを拡張する取り組みを開始しました」と話す。
導入作業で特筆すべきは、オペレーターが慣れ親しんだ従来のワークフロー自体は変えずに Zendeskが組み込まれたことだろう。特別なカスタマイズや開発なしに、Zendeskの各機能がそのまま利用された点も注目に値する。これはシステム移行に伴う所要時間を最小限に抑えつつ、業務改善のインパクトを最大限に高める効果を持つ。
顕著な変化はデータからもうかがえる。全問い合わせに占める電話の割合は76.8%から70. 4%に減少し、問い合わせ1件あたりの処理時間も約5分の1程度に短縮。逆に有人チャットによる問い合わせは50%増加し、顧客満足度は87.88%にまで向上している。これと同時に懸案だったデータの可視化と共有も本格化し、さらなる改善に向けた問題の洗い出しと対応策の検討が可能になった。
Zendesk導入から見えた課題と対策
現在、同社は電話、フォーム、有人チャット、チャットボット、FAQで顧客対応を行っている。これらのチャネルで得られた問い合わせ情報は、Zendeskのチケットで一元管理。応対記録や関係各所への情報連携、エスカレーション対応のフローもシームレスにデジタル化しつつ、FAQやナレッジの共有、データの集計・分析なども実施している。
EC・CRMシステム全体構成図(大丸松坂屋百貨店提供)
ただしこれらの施策は、Zendeskを軸とした業務改革の途上に過ぎない。冒頭でも述べたように、大丸松坂屋百貨店ではメッセージング機能の活用、 IVRへのSMS連携フロー追加、生成AIの活用などに取り組んでいる。
1つ目のメッセージング機能は、顧客が問い合わせを行う前に能動的にメッセージを表示するもので、FAQの充実とともに自己解決を高める効果を持つ。営業本部 MDコンテンツ開発第2部 オンラインストア担当の木村 崇文氏はこう説明する。
「オペレーターの生産性向上やCS向上の中でさらなる応答率向上を企図する中で、 有人対応問い合わせ数の削減に取り組むことが急務になっていました。そのような中、従来のUI改善やFAQ記事の充実という受け身のアプローチのみでなく、顧客がスタックするポイントに対して、能動的に自己解決を促進できるZendeskのメッセージング機能に、攻めのアプローチとしての有用性を感じていました。自己解決促進=無人接客の増加と顧客満足度の相関関係については、過去のZendeskのセミナーや、その中でのFABRIC TOKYOさんの先行事例からもヒントを得ました。」
プロアクティブメッセージの実際のユースケースの一つとして、あらかじめ3Dセキュアに関する顧客向けの注意点を掲示したことがあげられる。これは、クレジットカード認証の3Dセキュア導入に伴い、注文フローの決済エラーによる問い合わせが増えたことを受けてのものだ。また、進物で熨斗が必要となる注文の際、注文フロー上でお客様が誤って「ご自宅届」を選択し、後に問い合わせにつながるケースも発生していたため、プロアクティブメッセージの掲示をしたケースもある。この効果について、木村氏は「今後も注視、改善を続けていく必要がありますが、当社はシニア層のお客様も多いため、よりきめ細やかなサービスを検討していく中で、このような攻めのアプローチにシフトできたのは今後のCS向上のための大きな一歩であったと振り返っています。」と語る。
2つ目のSMS連携は、日本旅行の活用事例に着想を得たものだという。特に繁忙期でのオペレーター対応を減らしつつ、応答率向上による顧客満足度向上のため、同社でもIVRフローにSMS連携フローを追加。電話問い合わせのチャネルシフトと、チャネルシェアの平準化を図っている。
そして3つ目がAIの活用である。たとえばACWのプロセスに関しては、従来は電話応対の完了後に内容を手動で要約し、Zendeskのチケットフィールドに記録する方法が採られていた。現在は、導入当初から実装していたAmazon Connect Contact Lensでの
通話内容の文字起こし情報を、リアルタイムに生成AIツールAmazon Bedrockに連携して自動要約した上、Zendeskの該当箇所に展開することによって、ACWの大幅な削減を実現している。木村氏は生成AIを足がかりに、より積極的なデータ活用も視野に入れていた。
「お客様から寄せられるお問い合わせやご意見の中には、CS向上のみでなくマーケティング視点でも重要なキーワードが数多く含まれています。生成AIでキーワードを抽出していく『マイニング(掘り起こし)』は、新たなマーケティング施策やサービス改善を模索していくために極めて有用になります。有人対応の問い合わせ数を減らしつつ、顧客体験の向上を図る上で、生成AIチャットボットでの対応とオペレーターによる有人接客のハイブリッドにする運用も、今後検討していく予定です。また、AIによる音声対応は、昨今問題になっているカスタマーハラスメントの抑止効果も期待できます。」
今後の展望
大丸松坂屋百貨店の取り組みは、その合理的で先進的なアプローチ、既存のワークフローとの融合、実際的なインパクトの大きさなどにおいて、百貨店業界以外からも熱い注目を浴びている。顧客対応の現場からスタートした本事例は、同様の業務を行っている他社にとっても、DXを推進していく上での貴重なモデルケースになるだろう。少子高齢化社会の到来によるオペレーター不足に対応するという、広範かつ長期的意義を有している。
だが森氏が強調したのは、あくまでもVOC(ボイス・オブ・カスタマー:顧客の声)を基盤に、堅実な改善を継続していくことの重要性だった。
「ここまではかなりの成果を上げていますが、真に重要なのは自分たちに必要なソリューションを見極め、実際的な価値を生み出していくことだと思います。百貨店の場合、平常期と繁忙期ではご利用されるお客様や購入される商品の傾向も大きく異なってきます。加えてコンタクトセンターでの対応は非対面なので、実店舗におけるリアルな接客とは違いが生じがちです。だからこそ、われわれはVOCを軸に据えながら、高いレベルの対応をしっかり担保していきたい。ここからは私見ですが、最上級のお客様に対してはオペレータが直接対応する『声のおもてなし』もあえて残すべきだと考えています。効率化を図っていくことは、そのリソースを確保する上でも有効になっていくのです。3年目の現在は、施策をさらに進化させるための新たな取り組みが進行中です。これからも、より効率的で柔軟な対応を目指して改善を続けていきます。」
合理的な業務改革と、日本を代表する老舗百貨店ならではの上質な接客の融合。大丸松坂屋百貨店は、意義ある試みをさらに加速させようとしている。最後に森氏は、一連の改革を支えてきたZendeskへの信頼感を語ってくれた。
「この2、3年の取り組みは、Zendeskを導入したからこそ可能な取り組みであると認識しています。 Zendeskは自分たちが目指す施策について裏付けを取りながら、確実に改善を進めていく上で非常に便利なソリューションです。今後も有効活用しながら、地に足のついた改革を一歩一歩進めていきたいと考えています。」