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タクシー業界の常識を塗り替えてきたS.RIDEが、運用基盤の中核にZendeskを採用し続ける理由

S.RIDE株式会社は、Zendeskをサービス立ち上げの時点から CRMとして導入。タクシーアプリ「S.RIDE」の各機能と連携させながらサービスの運用基盤に組み込み、顧客の満足度を高めることに成功してきた。同社はZendeskを基盤に、対応チャネルの追加や24時間対応の実現、処理の自動化、多角的なデータ活用などを推進し、タクシー業界の常識を塗り替えた新たなサービスをさらに普及させようとしている。

S.RIDE株式会社
「既存のシステムにZendeskを搭載するのではなく、まずZendeskありきで、最も重要なお客様対応のソリューションとして最初からシステムの中核に据える。そこから各種の機能を連携させたのは本事例の大きな特徴であり、成長のドライブにもなってきたと思います」

足立 昌史氏

シニアマネージャー - S.RIDE株式会社

Zendeskソリューション導入の背景と課題

スマートフォンを手にしたビジネスマンが、手配したタクシーにさっと乗り込み、目的地に向かっていく。車体の脇にあしらわれた大きなロゴも、実にファッショナブルだ。S.RIDEは私たちが見慣れた街の風景と日常生活を鮮やかに変えてきた。

グローバルなテクノロジーカンパニーの一面を持つソニーグループと、業界を支えてきた5つのタクシー会社が共同出資したS.RIDE は、2018年に誕生(当時「みんなのタクシー」)。先進的なタクシーアプリ「S.RIDE」を運用し始めた際から、Zendeskを問い合わせ対応に採用している。

そもそもソニーグループ&タクシー会社という異色のタッグが誕生した理由を、S.RIDE 株式会社 取締役の安藤 雅敏氏はこう説明する。

「私の出向元は伝統あるタクシー会社ですが、新たな技術も常に取り入れようとしてきました。事実、過去には自動車メーカーと自動運転の可能性を検討したこともありますし、電話の代わりにアプリを活用した配車システムも開発したいと考えていました。しかしタクシー会社1社が開発を行うのは負担が大きい。そこで選んだのがジョイントベンチャーを立ち上げる道です。ソニーグループの技術力やエンジニアリングを活用できるというのは、タクシー会社側にとっても魅力的でした」

ソニーで長年モバイル畑を歩み、現在、S.RIDE 株式会社でシニアマネージャーを務める足立 昌史氏は、パートナー側からみたメリットを語っている。

「当時はまだ配車アプリも1社だけが採用している状況でしたが、われわれは技術的な可能性を感じていました。ソニーは各種のカメラやセンサーなどだけではなく、EV、自動運転技術の開発も行っています。特にタクシー業界は年中無休で稼働しますから、そこで新たなカメラやセンサー、AIやITの技術開発、データ蓄積を行っていけば、将来的な自動運転などの実用化にも役立つだろうという期待がありました」


(写真左から)
S.RIDE 株式会社 取締役 安藤 雅敏氏
シニアマネージャー 足立 昌史氏

Zendesk が選ばれた理由

かくして誕生したS.RIDEでは、2019年4月のサービスローンチに向けた準備を急ピッチで行っていく。安藤氏は、すでにアプリの開発は着手されていたが、顧客対応の仕組みは仕様が決定していなかったため、CRMの策定が焦点となったと振り返る。

「私や他のメンバーは過去に複数のCRMを使ったことがありましたので、その経験を踏まえて候補を2社に絞り、最終的にZendeskを採用しました。決め手は実践的な使いやすさと導入のしやすさです。サービス開始時には、問い合わせを管理する機能と、問い合わせを減らすFAQ作成ツールが不可欠になります。Zendeskはこれらの機能が揃っているだけでなく、すぐに実装できますから最適でした」

足立氏が言葉を継ぐ。

「最初はシンプルに問い合わせを受け付ける方式からスタートしましたが、アプリに実装する以上、相応の作業は必要になってきます。その点、Zendesk は管理画面で必要な項目だけ設定すればすぐに運用できる。一方、比較対象となった製品は様々なカスタマイズができる反面、細かな要件設定やコーディングが必要で、実装に非常に時間がかかります。運用を考えても、Zendesk に分があるのは明らかでした」


S.RIDEで使用しているZendesk管理画面(S.RIDE提供)

通常、企業がZendeskを導入する場合は、特定の課題やペインポイントを解決するケースが大半を占める。だがS.RIDEの場合は、サービス基盤の開発自体が、Zendeskの採用と一体となって進められてきた。

「タクシー会社にも長年の顧客対応のノウハウや実績がありますし、通常のメーラーを採用することも可能だったでしょう。しかしタクシー会社の問い合わせ対応では、お客様がどこで乗降され、いくら支払われたのかという情報を正確に把握し、きめ細かく対応することが求められます。S.RIDEはアプリを基盤にした新たなサービスですから、情報をしっかり収集し、チケットで管理していくことが不可欠でした」(安藤氏)

「既存のシステムにZendeskを搭載するのではなく、まずZendeskありきで、最も重要なお客様対応のソリューションとして最初からシステムの中核に据える。そこから各種の機能を連携させたのは大きな特徴であり、成長のドライブにもなってきたと思います。われわれは配車から決済、問い合わせ対応、各種のデータ管理、返金処理にいたる全てのフローに連携させ、一貫した顧客対応を展開してきました。ZendeskはAPIが実用的かつ豊富で、連携が楽なんです。これは過去の膨大なユースケースに基づいて、APIが開発されているからだと思います」 (足立氏)

Zendesk 導入の効果

安藤氏と足立氏がZendeskの導入効果を最初に実感したのは、2023年3月頃からだった。同時期はコロナ禍が収束し、旅行や移動のニーズが急増。2024年1月までの1年間で、アプリのダウンロード件数も1.7倍に増えている。外国人旅行客からの問い合わせも頻繁に発生する中、S.RIDEは空前の需要ラッシュを乗り切ることに成功した。

現在S.RIDEは、全国10都府県で約2万台のタクシーを運用。1日100件ほどの問い合わせを、5名のオペレーターがZendeskで処理している。初回回答まで30分、チケットが発生した事案の解決時間を15分で終えることなどをKPIにも定めている。

95%の配車成功率(2024年9月~12月のユニークユーザーごとの配車成功率)、東京最大級のネットワーク(都内ではタクシーの3台に1台が対応)、ソニーのAI技術などを駆使した最適な配車ロジックなども、右肩上がりで利用者を増やしてきた要因だ。幅広い顧客からいかに支持されているかは、iOSのアプリストアで5点満点中星4.7を獲得していることからもうかがえる。この採点はアプリの使い勝手だけでなく、運転やドライバーの接客対応まで踏まえた、サービスの総合的な満足度の指標となっている。

現在地点と近くを走るタクシー、到着時間、料金がリアルタイムで表示され、画面上のバーをスライドさせるだけで配車のオーダーが完了。支払いまでシームレスにできるシステムは利便性だけでなく、安心感も極めて高い。だが重要な要素は他にもある。それがタクシー業界で最も厳しいと言われる運用ルールだ。両氏は、S.RIDEとしての基準づくりにも心血を注いできた。

「プロジェクトが立ち上がった当時、ソニー側の人間はタクシー業界のことは何も知りませんでした。S.RIDEはタクシー会社側にとっても未知の試みだったので、とにかく互いの考え方を摺り合わせることに力を入れました。各社の関係者が毎週3回、秋葉原にあったオフィスに集まり、目指すべきシステムや必要な情報、運用体制について長時間、話し合ったのをよく覚えています」(足立氏)

「予約されたお客様が来られない場合、何分待つかというルールは会社ごとに違います。電話とアプリでは配車のご依頼を受ける方法も変わりますので、各社間での調整やドライバーさんへのガイダンスも大変でした。でもS.RIDEでは、あえて高いサービス基準を追求していこうと。迷いは一切ありませんでした」(安藤氏)

まるでテレビドラマの一コマのようなエピソードだが、S.RIDEでは顧客満足度を高めるために、社員が匿名でタクシーを利用。サービスのクオリティをチェックし、評価を共有するという踏み込んだ取り組みまで行ってきた。足立氏は次のように語る。

「個々のタクシー会社さんは、基本的には競争相手かもしれません。しかしチームを組んで高め合っていけば、タクシー業界全体が元気になる。ひいては日本全体が元気になっていきます。弊社では主役はあくまでもタクシー会社さんであり、S.RIDEはお手伝い役として位置づけています。この方針はジョイントベンチャーを立ち上げる際、タクシー会社側が株式の過半数を持つ体制にしたことにも現れています」

100件

5人で1日あたりに処理する
問い合わせ数

1.7倍

アプリダウンロード数の増加率
(2024年1月までの1年間)

4.7

iOSのアプリストアの
評価(5点中)

今後の展望

その後、同社では月額のサブスクリプションプランである S.RIDE PREMIUM や、法人向けのS.RIDE Biz、タクシー事業者による日本型ライドシェアサービスも投入。利用客と加盟するタクシー会社のネットワーク、そしてタクシーという交通手段の可能性を拡大してきた。より質の高い顧客対応を実現し、画期的なサービスをさらに普及させていくために、S.RIDEでは不断の努力が続けられている。

現在、同社では24時間365日の問い合わせ対応の実現、チャットやSMSのチャネル追加、顧客情報と乗車記録、問い合わせ履歴などの統合、AIによる対応処理の自動化などを計画。オペレーターの負担軽減と対応能力の向上、顧客対応の品質向上を目指している。さらにはZendeskで蓄積してきた膨大なデータを、アプリの改善や新たなマーケティング、商品開発に有効活用しようとしている。

ただし、これらの施策はS.RIDEが秘めた大きな可能性の一つに過ぎない。もともと同社は自動運転技術開発に向けた「モビリティデータサービス」を事業化するなど、時代の一歩先を見据えた技術・商品開発に力を注いできた。自動運転時代の到来に向け、S.RIDEがその入口に立っていることは間違いない。

S.RIDEは、公式サイトに4つのコアバリュー「be unique (独創的なサービスを提供する)」「believe in tech(最新テクノロジーを活用する)」「user driven(エンドユーザーやドライバーを最優先する)」「try, try, try !(チャレンジし続ける)」を提示。これらのビジョンを体現しながら、未来に向かって走り続けている。安藤氏と足立氏は、強力な推進力がZendeskであることを改めて強調した。

「お客様あってのビジネスですし、お客様に満足いただいてはじめて次につながるということで、Zendeskはなくてはならないツールになってきました。事実、Zendeskで得られた貴重なデータやVOC(ボイス・オブ・カスタマー:顧客の声)は、各タクシー会社の社長も常時チェックしています。今後もZendeskを活かして、S.RIDEならではのサービスを提供していければと考えています」(安藤氏)

「おかげさまでS.RIDEのアプリやサービスは、大変ご好評をいただいてきました。しかし、カスタマーサポートの品質をもっと上げていきたい。それがタクシー会社さんも含めた、ブランドを高めていくことにつながりますから。私たちはS.RIDEを一人でも多くの方に利用いただき、愛していただきたいと考えています。そのためにこそZendeskを使い続けているのです」(足立氏)