「AI導入で大切なのは、事前に業務フローを定義し、AIが正しく動ける『下地』を作ることです 。akippaでは人が対応していたオペレーションを細かく整理し、Zendeskと共に実装を進めたことで、短期間で狙い以上の成果を出せました 。AIは魔法ではありませんが、ルール設計という事前準備さえできていれば、確実に顧客体験を向上させる強力な仲間になります」
カスタマーサポートグループ グループマネージャー - akippa株式会社
60%
トラブルチャットの自動解決率
-45%
トラブルチャット関連の総コスト削減
+19pt
CSAT(顧客満足度)向上
98%
チャット応答率
-24%
緊急対応窓口の電話発生率
Zendeskソリューション導入の背景と課題
akippa株式会社は、全国の空き駐車スペースを15分単位から予約・利用できる駐車場マーケットプレイス「アキッパ」を展開する、シェアリングエコノミーのパイオニアだ。駐車場を利用するドライバーと、空きスペースを貸し出すオーナーという双方の顧客をつなぐ同社にとって、カスタマーサポート(CS)はプラットフォームの信頼を支える重要な接点だ。
現在カスタマーサポートグループ グループマネージャーである荒木氏がCS組織に加わった当初、「アキッパ」のサポート体制はまだ整備途上だった。問い合わせはメールで受け、電話は内線で対応するなど、成長するサービスを支えるには限界が見え始めていた。そこで最初に取り組んだのが、Zendeskを活用したFAQ整備、チャネル設計、問い合わせ管理の仕組み化である。荒木氏はこの段階を「建物を建てるための基礎づくり」と振り返る。
しかし、基盤が整うにつれて新たな問いが生まれた。サービスが成長し、予約数や問い合わせ数が増えるたびに、CSの人員を増やし続けることは本当に持続可能なのか。特にシェアリングサービスは、効率的な運営体制と顧客満足度の両立が欠かせない。そこで同社はアウトソーシングも活用しながら、24時間365日の対応をより効率的に提供する方法を模索。この「オペレーションを外部に切り出すために業務ルールを徹底的に言語化・マニュアル化する」というステップが、結果として後述する「AIフレンドリー」な土台を自然と形作ることになった。
AI活用は「ドライバーを待たせない」トラブル対応から
同社がまず着目したのは、駐車場を利用するドライバー向けのトラブル対応だ。社内メンバーの生産性向上と、顧客への迅速な自動解決という両面を狙えることに加え、問い合わせが最も多く即時性が求められる領域のため、最初の重点領域に定めた。
なかでも「駐車できない」というトラブルは、目的地へ向かう途中で起こる緊急性の高い場面だ。駐車場は目的地ではなく、その先に予定がある。だからこそ、ユーザーを待たせないこと、別チャネルへたらい回しにしないこと、必要な補償対応まで迷わず進められることが重要になる。
一方で、「アキッパ」にはもう一つの顧客であるオーナーも存在する。ドライバーはスマートフォンでサービスを利用するため、一定のデジタルリテラシーが前提となるが、オーナーの中にはメールアドレスを持たない高齢の土地所有者もいる。そのため、まずはスマートフォン利用に慣れ、即時対応の効果が出やすいドライバー側からAIエージェントによる自動化をスタートした。

akippa株式会社
カスタマーサポートグループ グループマネージャー 荒木 賢一 氏
Zendeskが選ばれた理由
AI活用のパートナー選定にあたっては、複数のサービスが比較検討された。そのうえでZendesk AIの導入を決めた背景には、すでにZendesk上でFAQやチャネル設計、問い合わせ対応の基盤を築いていたことに加え、CX領域におけるZendeskの継続的な開発投資と将来性への期待があった。
荒木氏が強調するのは、「AIに頼めば何でも解決する」という“AI神話”に陥らないことだ。AIはあくまでツールであり、成果を出すには、AIに何をさせるのか、どの情報を参照させるのか、どのタイミングでAPIを呼び出すのかを、人間が事前に設計する必要がある。akippaでは、既存のオペレーションがもともとルールに沿って細かく設計されていたこともあり、AIに置き換えやすい「AIフレンドリー」な土台があった。
実際、従来の有人対応は徹底したルール化とオペレーションの標準化が図られており、結果として、すでにAIを導入しやすい形になっていた。人による同時対応には上限があるが、AIであれば待ち時間を減らし、案内のスピードをさらに高められる。顧客体験を向上させながらコストを最適化できるという見通しが、投資判断を後押しした。
導入・実装のプロセス:プロフェッショナルサービスとの協働
今回のプロジェクトで重要だったのは、既存業務をそのままAIに渡すのではなく、AIが判断できる形へ再定義することだった。akippaでは、アウトソーシングを進める過程で、どの業務を切り出せるのか、どこまでを外部化できるのかを整理し、現場のオペレーションを細かくマニュアル化してきた。その蓄積が、AIエージェント導入時の大きな資産となった。
プロジェクトでは、荒木氏が全体方針や計画設計を担い、現場の詳細なオペレーション整理はチームメンバーと連携しながら進めた。Zendeskの専門家が支援する「プロフェッショナルサービス」は、akippa側が描いたフローチャートや要件をもとに、AIがどう動くべきかなどを具体的に設計。自動化したい業務範囲が明確だったことで、プロジェクトはオンタイムで進み、短期間でリリースに至った。
このプロセスは単なるシステム実装ではなく、同社の業務知見をAIが判断できる形へと変換し、ユーザーが迷わず自己解決できる体験をつくるための作業だった。AIの回答の揺らぎを抑え、ユーザーが迷わず完了できる体験をつくるうえで、事前の緻密な業務設計とZendeskのプロフェッショナルサービスによる伴走支援が鍵を握った。

導入効果:「手間がかからない」体験へ
2025年11月のAIエージェント運用開始後、データにはすぐに顕著な成果が現れた。その推移をグラフにして経営陣と共有した際、同社の経営陣からは「ここまで明確に数字に出るのか」と大きな驚きと歓声が上がったという。
具体的な成果として、シナリオに合致したトラブル対応チャットのうち、実に60%をAIが人を介さずに完結 (自動解決) させる状態を作ることができた。これにより、件数とコストが比例して増え続ける懸念は解消され、AIエージェント利用料を含めても、トラブルチャット関連の総コストを45%削減するという圧倒的な投資対効果を立証した。
さらに、AI活用によって顧客体験の品質が落ちるという懸念もデータで覆された。24時間いつでも均一かつ即座に対応できる体制が整ったことで、CSAT(顧客満足度)のGOOD率は+19ポイント改善した。チャット応答率も83%から98%へと向上し、取りこぼしによる緊急対応窓口への電話発生率を約24%減少させる効果も生まれている。
従来はオペレーターが顧客情報を確認・特定するために30秒から1分程度待たせる場面もあったが、AIエージェントでは事前情報やAPI連携を活用し、会話を止めずにスムーズに進められる。
もちろん、すべての顧客が機械的な対応を好むわけではない。そこで同社が重視しているのが、Customer Effort Score、つまり「どれだけ手間がかからなかったか」という指標だ。トラブルそのものを満足体験に変えることは難しくても、「残念な出来事ではあったが、手間はかからなかった。便利だからまた使おう」と思ってもらえる状態を目指している。
現地ごとに運用が異なる駐車場サービスにおいて、「困った瞬間に手間なく解決できること」は、次回利用への信頼に直結する。AIは、この「手間がかからない」体験を支える重要な手段となっている。
今後の展望:オーナーにも「使いやすい」AIを届ける
今後の重要テーマの一つが、「アキッパ」オーナー向けサポートの高度化だ。ドライバー向けにはスマートフォンを前提としたチャットUIでの自動化が進めやすい一方、オーナー側には、管理画面の操作や問い合わせフォームの利用が難しい層も存在する。オーナーサポート窓口では問い合わせの約25%〜30%を電話が占めており、緊急対応窓口も含めると、音声チャネルは無視できない接点になっている。
将来的には、音声でAIとやり取りし、貸し出し設定や運用変更まで完了できるような環境を目指している。高齢のオーナーが管理画面を操作できず設定変更を断念すれば、ドライバーとの現地トラブルを招きかねない。その両者の負荷をAIで解消する狙いだ。
akippaは、あらゆる顧客が便利にプラットフォームを活用できる環境を提供することを、プラットフォーム事業者としての責任と捉えている。AIは、デジタルに慣れたユーザーだけでなく、これまでオンラインサービスの操作に不安を抱えていた顧客にも、自然にサービスを使ってもらうための橋渡しになり得る。ドライバーを待たせない体験から、オーナーが無理なく参加できる体験へ。AI活用は、シェアリングエコノミーの可能性をさらに広げる取り組みとして、次のフェーズへ進もうとしている。「CSは単なる問い合わせ対応部門ではなく、AIを駆使して次の顧客体験をつくる部門として、サービス成長の先頭に立つ」。同社のあくなき挑戦は、これからも続いていく。

akippa株式会社
カスタマーサポートグループ グループマネージャー 荒木 賢一 氏 (写真中央)
合同会社Zendesk
プロフェッショナル サービス本部 折出 悠貴 (写真左)、カスタマーサクセス本部 川上 友樹 (写真右)
