「スタッフは皆、組織に貢献したいという意欲を常に持っています。一人一人が業務に全力を尽くすための阻害要因を取り除き、最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整え続けることが重要であり、それを共に実現する仲間の一人がAIです」
執行役員 ビジネスプラットフォーム部 部長 - 株式会社クラシコム
Zendeskソリューション導入の背景と課題
株式会社クラシコムは、「フィットする暮らし、つくろう。」というミッションを掲げ、ライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を軸に多角的な事業を展開している。同社が扱うのは、国内外からセレクトしたキッチン用品やインテリア雑貨の販売にとどまらない。オリジナルのアパレル開発から、日々の暮らしに彩りを添えるWEB記事、ポッドキャスト、さらには映画制作やオリジナルドラマの公開まで、顧客の日常に寄り添い、その「心地よい状態」を共に育むメディアとして絶大な支持を集めている。
クラシコムの最大の特徴は、提供する商品やコンテンツを通じて表現される「自分らしく、心地よい状態」という価値観が、顧客に対してだけでなく、働くスタッフのスタイルにも深く根ざしている点にある。同社は「自由・平和・希望」というキーワードを経営の核に置き、持続可能な働き方を追求。スタッフの多くが子育て世代であり、常に一定数の社員が産休・育休を取得している環境にありながら、世界観を大切にした迅速かつ丁寧な顧客対応を両立させている。その基盤を支えるプラットフォームとして、同社はZendeskのエージェントCopilotを選択した。
成長の一方で増大する「開封・振り分け」の負荷
クラシコムのカスタマーリレーショングループは、長年、1件1件の問い合わせに丁寧かつ迅速に向き合うメール対応を行ってきました。同社にとってサポート業務は、単なる注文処理の延長線上としてではなく、ブランドの世界観を直接顧客へ届ける大切な「対話の場」である。しかし、事業が順調な成長を遂げ、顧客層が広がる中で、問い合わせ件数は増加の一途をたどっていた。
特に大きな課題となっていたのが、土日を挟んだ「週明けの業務負荷」である。月曜日の朝には、200〜300件もの未読メールが滞留しており、4〜5名のスタッフが「開封・振り分け当番」を担当。朝の時間を費やして一通ずつ内容を確認し、担当者へ割り振る作業を行っていた。これが終わらない限り、本来の「返信業務」には着手できず、スタッフは常に時間の制約に追われる状況にあった。
ビジネスプラットフォーム部 カスタマーリレーショングループのマネジメントを担う望月氏は当時の状況をこう語る。
「当時は、開封作業を手動で行っていたうえ、一件一件に対して全ての文章を人が考えてから返信していたため多くの時間を要していました。また、メールの文面のトーンや文章の構成などに習熟することにも時間をかけていたと思います。人手でカバーする、という運用で乗り切ってきましたが、お客様からの注文やお問い合わせが増加する中、何か良い対応方法はないか、と切実に感じていました」
執行役員 ビジネスプラットフォーム部 部長の高尾氏もまた、戦略的な観点から業務の再設計を考えていた。
「当社には子育て世代の社員も多く、メンバーのライフイベントが重なり数名が産休や育休でお休みしている状況も珍しくありません。人員が限られる中、従来から業務量そのものを減らすための検討も進めていましたが、業務の効率化は重要なテーマでした」

株式会社クラシコム
執行役員 ビジネスプラットフォーム部 部長 高尾 清貴 氏 (左)
ビジネスプラットフォーム部 カスタマーリレーショングループ マネジャー 望月 理紗 氏 (右)
Zendeskが選ばれた理由
実は、クラシコムがAI活用を検討したのは今回が初めてではない。約3年前、世の中にAI活用の機運が高まり始めた頃から継続的に検討は行っていた。しかし、検討を始めた当時のAI機能は、クラシコムの求める水準には届かなかった。一度は導入を断念し、時期尚早と判断した経緯があった。
今回の再検討において、数ある選択肢の中からZendesk AIが選ばれた理由は、その「運用設計の思想」にあった。
「ChatGPTなどの外部ツールを個別に使うことも検討しましたが、CSスタッフが日々使い慣れているZendeskの画面内で、AIが直接下書きを提案してくれる方が圧倒的に便利です。特に、AIが勝手に返信するのではなく、『AIが起案し、人間が確認・送信を行う』というプロセスであれば、万が一AIが誤った回答を作っても、人間が必ず食い止められる。このAIが起案して人間が承認するという仕組みが、導入の安心感に繋がりました」(高尾氏)
また、既に5年近くZendeskを使い込んでおり、蓄積された膨大な対応履歴やナレッジをそのまま活用できる点も、同社にとって大きなメリットだった。
導入・実装のプロセス
導入に際して、クラシコムは技術的な実装と同時に、スタッフの心理的ハードルを下げるためのアプローチを行っている。最初は3名のコアメンバーによるトライアルから開始し、「これならチームメンバーに満足してもらえそうだと思える仕組み」に仕上げてからチーム全体に展開。この時高尾氏が発信したメッセージは、「AIで成果を出す」という義務感ではなく、「まずはAIと仲良くなってみてほしい」という非常にフラットなものだった。
「AIは一度導入して終わりではなく、使い続ける中で学習し、共に変化していくものです。だから現場のメンバーには、『一回使ってみて回答が違ったからダメだ』と終わりにするのではなく、使い続けることが大事だと伝えました。むしろ、違うと思ったら承認ボタンを押さなくていい。それもAIにとっては大事な学習になります。私たちが大切にしたのは、ツールとして『使えるかどうか』を評価するのではなく、自分たちのチームにどう取り入れられるかを一緒に考える『仲間』としてAIを受け入れるスタンスです。単に『AIを使って』と指示するだけでは、浸透しないだろうと考えていました」(高尾氏)
実務面では、コアメンバー3名で250種類におよぶ既存のマクロ(定型文)をすべて見直した。その過程で、同社が大切にしてきた「言葉へのこだわり」が改めて言語化されていった。
「長年使ってきたマクロを見直すと、意外にも読みづらかったり、過剰に丁寧すぎて今のブランドイメージには重すぎたりする表現が見つかりました。たとえば、『大変申し訳ございませんが……』と何度も繰り返すよりも、端的にお客様の困りごとを解決し、親しみやすい距離感で接する方が、今のクラシコムらしい。AI導入は、私たちのコミュニケーションのあり方を再定義する絶好の機会になりました」(望月氏)
精査されたマクロに基づき、「読みやすさ重視」「長文にせず簡潔かつ温かく」といった独自の指示をAIに学習させた。この緻密な「魂を吹き込むプロセス」こそが、AIを「単なるプログラム」から「クラシコムの思想を理解した新たな仲間」へと進化させたのである。

Zendesk導入の効果と今後の展望
導入から数ヶ月、現場の景色は着実な変化を遂げている。最大の実績は、かつてスタッフ数名で数時間を費やしていた「チケット振り分け作業」が、AIによってほぼ完全に自動化・消滅したことだ。また、全チケットの約1割が、AIによる要約と下書き生成を経て人間が即座に承認・送信する回答で完結している。
この効率化は、単なる数字以上の「定性的な成果」もチームにもたらしている。
「朝の当番制がなくなったことで、スタッフに大きな余裕が生まれました。始業直後から、人が対応すべき返信業務や、より複雑な課題解決に集中できるようになったのです。また、AIがナレッジを補完してくれることで、ベテランの知識に頼りすぎない体制が整いました」(望月氏)
高尾氏も、「数字上の生産性よりも、仕事の負荷が軽減されていることや、繁忙期でもチームで業務改善に取り組む時間が創出できていることを高く評価しています」と強調する。
今後の展望について、高尾氏はさらなる「情報の結合」を見据えている。
「現在はZendesk内の情報を活用していますが、今後は自社の基幹システムとより深く連携させ、AIが直接在庫状況や入荷予定を参照して回答を作れるようにしたい。AIに理解させる情報を増やすことで、人間が確認すべき『一歩踏み込んだサポート』の領域をさらに広げていきたいと考えています」。
テクノロジーと人間性が調和したクラシコムの挑戦は、最新技術をいかに組織の文化や個人の暮らしに「フィット」させ、事業への貢献と人の成長を両立するかという、新しいカスタマーサポートのあり方を提示している。


