サイレントカスタマーの声を拾い上げ、より良い顧客価値を実装し続ける仕組み

自動車部品メーカーのデンソーは、スマホアプリでドライバーの安全運転意識を高め、ドライブデータで安心・安全なまちづくりに参加する「yuriCargoプロジェクト」を進めている。社員ユーザー向けの実証実験を経て一般リリースするにあたり、カスタマーサポートにZendeskを採用。アジャイルなビジネス開発との親和性の高さを発揮している。

株式会社デンソー

「より良いサービスを創るために重要なのは、顕在化しにくいサイレントユーザーの声です。ユーザーからのフィードバックを可視化し、速やかにサービスに反映していく上で、アジャイルなビジネス開発との親和性の高いZendeskは非常に魅力的なツールです。」

黒田 健史氏

クラウドサービス開発部 デジタルイノベーション室
- 株式会社デンソー

Zendeskソリューション導入の背景と課題

自動車メーカーに直接部品を供給するTier1(ティアワン)企業として確固たる地位を築いている株式会社デンソーは、数多くの世界トップシェア製品を有し、自動車部品メーカーの中では世界No.2のグローバルサプライヤーである。人工知能、IoT、ビッグデータなど、テクノロジーへの依存度が高まっている時代だからこそ、デンソーは人に寄り添い、幸せの本質は何かを考え続けることで、「地球、社会、ひとりひとりがウェルビーイングでいられる未来」の実現を目指している。こうしたビジョンのもと、クルマづくりに携わる企業として、モビリティに乗る人だけではなく、乗らない人も含めたすべての人へ安心・安全を届け、交通事故ゼロの世界に近づけることも重要な使命の一つだ。

しかし、多くの交通事故はドライバーの不注意により発生しており、どんなに高度な先進技術をもってしても、交通事故のない社会を実現することは容易ではない。そこで、高い安全意識を持って運転する人を増やそうと開発したのが、ドライバーの意識を変えるスマホアプリ「yuriCargo(ゆりかご)」である。デンソーが、新しいサービスをアジャイルに内製開発するための組織として「デジタルイノベーション室」を立ち上げたのは2017年。シリコンバレーのスタートアップと同じ土俵に立ち、「ゼロからイチを創る」「早く、安く作る」「作りながら考える、顧客と共に創る」を実践するなかでyuriCargoが誕生した。

yuriCargoは、スマホにインストールして運転するだけで、万歩計アプリのように運転を自動判定できるアプリ。急ブレーキや急ハンドル、急加速、スマホ操作などを検出し、ドライバーの安全運転意識を評価することで、自らの運転を振り返ることを習慣化させる狙いがある。また、ユーザー間で運転スコアを競い合ったり、ミッションクリアに応じてインセンティブを受けたりといったゲーミフィケーションを取り入れ、楽しみながら取り組めるだけでなく、ユーザーの運転データは交通安全活動や安全な道路づくりに役立つという社会貢献の側面も併せ持つ。

2020年7月、サービスを本格リリースする前に社内実証実験をスタートした同社は、社員からの問い合わせ対応のプラットフォームに、コミュニケーションツールとして使い慣れた社内SNSを活用。しかし、まもなく情報の透明性に限界を感じたとして、株式会社デンソー クラウドサービス開発部 デジタルイノベーション室 黒田 健史氏はこう振り返る。
「SNSでは情報が流れていってしまい、問い合わせを一元管理しにくいという問題があります。たとえば、週次のミーティングで『その話は初めて知りました』という人がいたりするわけです。また、FAQがアプリの中に組み込まれていないため、わざわざSNSに情報を取りにいく必要があり、自己解決を促しにくいという課題もありました。」

Zendeskが選ばれた理由

スマホアプリは、使い勝手の良さが継続利用を大きく左右する。サービスの一般向けリリースを見据え、社外のユーザーとコミュニケーションできる環境が必要になるのはもちろんのこと、獲得したユーザーの離脱を防止するには、問い合わせへの即時的な対応、問い合わせの一元管理、顧客の声に基づくサービスの迅速な改善、自己解決を促進するFAQの充実などが重要になると考えた同社は、これらの要件を満たすZendeskに着目した。

「とにかく検討する時間さえもったいなかった」と語る黒田氏は、Zendeskのトライアルを通じて構築の容易性や使い勝手の良さを確信し、導入に迷いはなかったという。
「Zendeskはすでに多くの知見を持つグローバルサービスであり、機能もこなれています。新規サービスの立ち上げ期ということで、とにかく少ない投資で始めたかったので、一人から利用できる課金モデルもありがたかったですね。小さく始めて大きく育てていける点に当社のアジャイルなビジネス開発との親和性の高さを感じました。」(黒田氏)

Zendeskで構築したFAQページ

Zendeskで構築したFAQページ

Zendesk導入の効果

yuriCargoは一年にわたる社内実証実験を経て、2021年7月に一般リリース。本社のある刈谷市、イーデザイン損害保険株式会社との三者で、安心・安全なまちづくりを目指す「刈谷市yuriCargoプロジェクト」が始動するなど本格リリースを機に、Zendeskを基盤に採用したカスタマーサポートが始まった。

Zendeskを導入してまだ間もないものの、手応えは十分だ。問い合わせのステータスが瞬時に把握できるようになり、目標時間内での迅速な対応が可能になったほか、アプリ内に設置されたFAQページを通じて自己解決が促進され、早くも問い合わせ数の減少が見られる。その他にも、社内メモ機能による対応の属人化解消、問い合わせ内容の容易な分析、FAQ記事の継続的改善など、出来ることが格段に増えた。閲覧数の多かったFAQ記事や気になる問い合わせは開発チームと共有し、カスタマーサービスにおける問題点の洗い出しや、アプリ改良の検討、ユーザーへの情報発信に役立てている。

閲覧数の変化や閲覧数の多かった記事を把握し、FAQの充実、アプリの改善に繋げている

閲覧数の変化や閲覧数の多かった記事を把握し、FAQの充実、アプリの改善に繋げている

他部門との連携においては、ビジネスチャットツールであるSlackとのAPI連携を実現することで、情報の透明性と即時性が向上。時間のかかる段階的なやり取りが不要になった。株式会社デンソー クラウドサービス開発部 デジタルイノベーション室の戸田 翔大氏は、「ライトエージェントであるエンジニアもユーザーの生の声をリアルタイムかつダイレクトに拾えるので、回答方針について提案してくれたり、ユーザーに確認すべき点を事前に指摘してくれたりします。担当者間での伝言ゲームのようなプロセスをなくし、回答のスピードはもちろん精度も大きく向上しています」と語る。

Slack上で簡単かつリアルタイムにユーザーの声を把握できる

Slack上で簡単かつリアルタイムにユーザーの声を把握できる

今後の展望

一般ユーザーに無料で提供されるyuriCargoは些細なきっかけで離脱につながりやすい。カスタマーサポートを重要な顧客接点とする黒田氏は、「いかに離脱を防ぐかが課題。アプリをインストールしてくれたお客様に心地よいユーザー体験をお届けし続けるためには、速やかな問題解決、速やかな改善が鍵を握ります。世の中の多くのサービスがそうであるように、声を上げてくれるユーザーは一握り。大半は声を上げることもなく、知らぬ間に離脱してしまうサイレントカスタマーです。つまり、顕在化しにくい課題の中にこそ改善のヒントがあるわけで、Zendeskはそこにアプローチできるのが非常に魅力的です」と説明する。

問い合わせにまで至らないユーザーの動向を把握するために、今後は豊富な分析機能を駆使した顧客理解の深化、チャットボットによるユーザーの課題および解決策の可視化に注力していく考えだ。ゆくゆくはシングルサインオンで個を特定できる仕組みを構築し、よりきめ細やかでプロアクティブなコミュニケーションを実現していきたいという。Zendeskは新しいビジネスの広がりにどこまでも寄り添えるツールとして、これからますます真価を発揮することになりそうだ。