優れた顧客体験(CX、カスタマーエクスペリエンス)を安定して提供できれば、たまたま利用してくれただけの顧客も、長く付き合ってくれる顧客に変わります。ただし、質の高いカスタマーサービスで知られる企業でも、対応が難しい顧客と向き合う場面は避けられません。鍵になるのは、カスタマーサービスのスキルを生かして、こじれた状況を前向きなやり取りに変えることです。
ZendeskのCXトレンドレポート2026年版によると、消費者の72%が、「たった一度の悪いサービス経験で競合他社に乗り換える」と回答しています。難しいやり取りをうまく切り抜ける方法を身につける意味は、この数字に表れています。
この記事では、対応が難しい顧客によくあるタイプの見分け方と、収益にもつながる強固な顧客との関係を築くためのクレーム対応のコツ13選を、ケース別の対応例とあわせて解説します。
目次
クレーム対応とは
クレーム対応とは、顧客からの苦情や不満を受け止め、問題の解決から原因の究明、再発防止までを行う一連の活動です。この記事では、そのうちサポート担当者が対応の難しい顧客と直接向き合う場面に絞り、顧客のタイプ別の見分け方と対応のしかた、13のコツ、ケース別の対応例を解説します。クレーム対応の基本は、冷静に最後まで話を聞き、気持ちに寄り添い、事実を確認したうえで正確に答え、次の手順を伝えて約束を守ることです。
対応が難しい顧客の5タイプと対応のしかた

顧客の要望、ニーズ、期待、性格は顧客ごとに異なります。カスタマーサービスを一人ひとりに合わせることが、良いやり取りの出発点になります。対応が難しい顧客によくある5つのタイプについて、見分け方と、最適なサポートを提供するための対応のしかたを順に見ていきます。
なお、暴言や威圧的な言動、社会通念を超える要求が続く場合は、この記事で扱う対応が難しい顧客への対応とは切り分け、カスタマーハラスメント(カスハラ)として組織のルールに沿って対応します。担当者一人で抱え込まないことが大切です。正当なクレームとの見極め方はカスハラ対策の記事で解説しています。
1. クレームを頻繁に伝えてくる顧客
製品やサービスに問題があれば、感じたことをためらわずに伝えてくる顧客です。
2. なかなか満足しない顧客
顧客体験の水準にかかわらず、製品やサービスのどこかに不満が残る顧客です。そうした場面では、顧客の意見を大切にしている姿勢を示します。
3. 解約しそうな顧客
今にも競合他社へ乗り換えようとしている顧客です。この状況をうまく乗り切ることが、解約率を低く保つうえで欠かせません。
4. 要望をはっきり示せない顧客
何を求めているのかを自分でも把握できていないことがあるのが、このタイプの顧客です。状況を整理できておらず、問題をうまく説明できない場合もあります。
5. 提供範囲を超える期待を持つ顧客
この顧客は、製品やサービスの提供範囲を超える期待を抱いていることが多く、価格面でも厳しい要求をしがちです。こちらの回答に納得しなかったり、対応できないことを要求してきたりします。
クレーム対応のコツ13選
難しいやり取りの中で顧客満足を得るのは大変に思えますが、要点を押さえれば、思っているほど難しくはありません。対応が難しい顧客に向き合い、不満を満足に変えるための13のコツをまとめました。いずれも、日々のクレーム対応の基本として取り入れられるものです。

1. 最後まで冷静さを保つ
不満を抱えた顧客とのやり取りがこじれたとき、こちらが冷静さを失えば事態は悪化するだけです。顧客が不満を持っているのは製品やサービスの品質に対してであっても、担当者はブランドの代表として見られるため、その不満は担当者に向けられがちです。
顧客の語気につられるのではなく、やり取りの間ずっと落ち着いた態度を保ちます。顧客の声が大きくなっても、声の調子を変えずにはっきりと話すのが基本です。こちらが穏やかな態度を保てば、顧客の気持ちも落ち着きやすくなります。
2. 相手の話を最後まで聞く(アクティブリスニング)
良いカスタマーサービスとは、辛抱強く耳を傾け、顧客に話してもらうことです。顧客を理解しようという姿勢で向き合う聞き方、アクティブリスニング(積極的傾聴)を実践します。話をさえぎらず、聞いていることが伝わる程度の短い相づちを入れます。
顧客が話し終えたら、内容を要約して繰り返し、すべて正しく理解できているか、ほかに補足したいことはないかを確認します。問題が双方の間ではっきりすれば、解決方法の相談に入れます。
3. 声の調子と感情に注意を払う
顧客の声の調子、感情、表情やしぐさからは多くのことが読み取れます。同じように、顧客も担当者の声や態度から多くを読み取っています。対面のやり取りでは、顧客の表情やしぐさに合わせて対応を調整し、良い体験につなげます。
声の調子と感情には特に注意を払います。顧客がいら立っていたり、がっかりしていたりするようなら、何が引っかかっているのかを尋ねます。顧客が不満をあらわにして声を荒らげているときは、自分の表情やしぐさにも気を配ります。腕を組む、目をそらすといった態度は、顧客が本音を話しにくくなる原因になりかねません。
4. プロとして、前向きな言葉で伝える
言葉遣いの荒い顧客に対応するときも、プロとしての受け答えと肯定的な言葉遣いが大いに役立ちます。顧客が否定的な言葉を使ったら、同じ内容を肯定的な言い回しに置き換えて返します。
次のような前向きなフレーズを使います。
「喜んでお手伝いいたします」
「かしこまりました」
5. 相手の気持ちに寄り添う
顧客がまず求めているのは、自分の話をきちんと聞いてもらえたという実感です。懸念を真剣に受け止め、気持ちに配慮してくれる相手を望んでいます。問い合わせた先の担当者の反応が冷めていると、顧客の不満はさらに募ります。
「本当に大変な思いをされたのですね。このような状況になり、申し訳ございません」といった言葉で、顧客の気持ちに寄り添います。顧客の気持ちを受け止めていると伝われば、信頼につながります。
6. 一呼吸おく時間を取る
難しい顧客対応は、どれほど優れたサポート担当者にとっても負担になります。余裕をなくしたときは、深呼吸をして落ち着く時間を取ってかまいません。長い目で見れば、そのほうが優れたカスタマーサービスの安定した提供につながります。
具体的には、問題の詳細を確認する間、少しだけ保留にしてもよいか顧客に尋ねる方法があります。難しい電話の後に短い休憩を挟み、疲れを次の顧客への対応に持ち込まないようにするのも一つの方法です。
7. 事実を確認したうえで丁寧に答える
顧客は素早い対応を期待していますが、耳当たりのよい答えをただ返してほしいわけではありません。問題の詳細を踏まえ、正確な情報を伝えます。
顧客に伝える前に、問題を調べて根本原因を突き止めます。情報を確認しないまま推測で答えると、誤った案内になり、その責任を顧客から問われかねません。
8. 一人ひとりに合わせた対応をする
担当者が使えるカスタマーサービスツールとデータが増えるほど、対応を一人ひとりに合わせる余地は広がります。CXトレンドレポートによると、消費者の54%が、「パーソナライズされていないサービスに強いストレスを感じる」と回答しています。
対応が難しい顧客への対応を一人ひとりに合わせれば、大勢の中の一人としてではなく、大切にされているという実感を持ってもらえます。たとえば、AIエージェントを顧客関係管理(CRM)システムと組み合わせれば、担当者は顧客が期待する個別対応に必要な顧客情報とこれまでの経緯を手にできます。
9. 顧客が望む解決策を聞き、実現できるか見極める
推測に頼るのをやめ、顧客に何を望んでいるのかを率直に尋ねます。多くの顧客は、問い合わせる前から望む解決策を思い描いているものです。それを聞き出せれば、期待に応えられるかどうかの判断がつきます。
顧客が求める解決策を確実に提供するには、チームリーダーや上司と連携する必要があるかもしれません。要望に応えられない場合は、取りうる選択肢を伝え、顧客が納得できる着地点を探ります。
10. 次の手順を整理して伝える
顧客の問題を十分に把握したら、次の手順を顧客に分かりやすく示します。解決のために何が必要かと、目安となる期間を伝えます。顧客側に作業が必要なのか、それとも必要な情報はすべてそろっていて、こちらで進められるのかも明らかにします。
いつ連絡できるかを伝え、対応中であっても途中経過を欠かさず報告します。手厚いカスタマーサービスと、こちらから経過を隠さず伝える姿勢があれば、顧客の満足を保ち、再び状況がこじれるのを防げます。
11. 守れない約束をしない
張り詰めた状況では、顧客が喜ぶと分かっている解決策をつい口にしたくなります。しかし、できない約束は、かえって事態をこじらせます。
顧客は約束が果たされることを期待しているので、提示するのは確実に実行できる解決策に限ります。返金を約束したなら、確実に返金できなければなりません。そうでなければ顧客からの信頼を損ない、その顧客はおそらく戻ってきません。
12. 必要なときは上司に相談する
対応が難しい顧客への対応は簡単な仕事ではなく、すべての答えや解決策を自分だけで持っているとは限りません。上司なら答えを持っていることもあります。複雑で難しい案件で支援が必要なときは、ためらわずに助けを求めます。
上司は担当者を支える立場にあり、相談されることを前提にしています。似た状況を経験していたり、解決を後押しできる人やリソースを頼れたりもします。一緒に知恵を出し合えば、一人では実現できなかった解決策を提示できます。
13. カスタマーサービスのSLAを定める
SLA(サービスレベル合意)とは、個々の顧客や顧客グループとの間で、サポートの具体的な基準を取り決めるものです。SLAを定めれば、サポート担当者が目指す基準がはっきりします。
SLAは顧客にとっても、応答時間や解決時間など、信頼できるサービス水準の目安になります。これが顧客からの信頼を築き、顧客ロイヤルティを高め、顧客維持の向上につながります。
対応が難しい顧客への対応例

難しい顧客対応は、さまざまな形で現れます。業種を問わず、サポート担当者にはどんな状況にも備えておくことが求められます。以下は、対応が難しい顧客への対応例として、いくつかのケースとその最善の対応方法をまとめたものです。
ケース: 顧客が責任者に代わるよう求めてきたとき
電話を受けると、顧客はすぐに責任者に代わるよう求めてきました。顧客は怒って声を荒らげています。聞き取りにくいものの、同じ問題が一向に解決されないという言葉が断片的に拾えます。
対応方法:
多くの企業の対応マニュアル(標準業務手順、SOP)では、責任者に引き継ぐ前に、まず一次対応のサポート担当者が問題の解決を試みるよう定めています。顧客の名前を呼び、落ち着いた口調でプロとして話しながら、まずは不快な思いをさせてしまったことへのお詫びを伝えるのが良い方法です。顧客の情報はすべて手元にあり、責任者と連携するために、これまでの問い合わせ履歴(チケット)を確認していることを伝えます。
解決策を提示できる機会があれば、その場で提示します。少しだけ保留にしてもよいか顧客に尋ね、その間に責任者と手早く解決策を相談する方法もあります。引き継ぎを遅らせることで状況がさらに悪化しそうなら、すぐに責任者に代わります。
ケース: 顧客が返金を求めてきたとき
購入者がカスタマーサポートに連絡し、荷物は届いたものの、商品のサイズが違うとAIエージェントに伝えます。AIエージェントは感情と意図を読み取り、顧客が気分を害していることを把握します。交換方法を説明するFAQやヘルプ記事を案内しますが、顧客は人間の担当者と話したいと求めます。
顧客は怒っており、Webサイトのサイズ表が分かりにくいと訴え、週末までに商品が必要だとも言います。返金を要求し、近所の競合店で買うと言っています。
対応方法:
顧客の話を聞き、謝罪し、気持ちに寄り添います。返金の要望には、自社の返品・返金の規定に沿って応じられることを伝えます。そのうえで、週末に間に合う代替案として、希望どおりのサイズの商品を翌日配送で無料で送ることを提案できます。追跡情報も、その日のうちに顧客が希望するLINEなどのチャネルへ自動送信すると伝えられます。
ケース: 顧客が低評価のレビューを残したとき
匿名の顧客がGoogleのクチコミに星1つの評価を付け、「ひどいサービス」とだけ書いた短いレビューを残しました。
対応方法:
レビューに謝罪の返信を書き、体験の詳細を、顧客が希望する連絡チャネルで教えてもらえないか丁寧に尋ねます。連絡が取れたら、担当者の作業画面(エージェントワークスペース)で注文番号と顧客情報を確認できるはずです。
指摘された不快なやり取りの背景が分からなければ、体験の詳細を説明してもらいます。悪い体験の原因がどこにあったかを突き止め、問題そのものを解決します。社内の承認が得られていれば、お詫びとして次回の購入で使える割引を提示することもできますが、レビューとは切り離して扱い、内容の修正や削除をお願いすることはしません。見返りと引き換えに否定的なクチコミの修正や削除を求めることは、Googleのポリシーで禁止されています。解決後は、レビューへの返信でも対応した旨を丁寧に伝えます。
クレーム対応に関するよくある質問
まず冷静さを保って最後まで話を聞き、内容を要約して認識をそろえます。次に相手の気持ちに寄り添ってお詫びを伝え、事実を確認したうえで正確な情報を伝えます。そのうえで顧客が望む解決策を聞き、実行できる範囲で次の手順と目安の期間を示し、途中経過を欠かさず報告します。守れない約束はせず、自分だけで解決できない場合は上司に相談します。
顧客の語気につられて感情的に応じること、否定的な言葉をそのまま返すこと、事実を確認しないまま推測で答えること、守れない約束をすることです。いずれも事態を悪化させ、顧客からの信頼を損ないます。支援を求めずに一人で抱え込むことも避け、複雑な案件は早めに上司を交えて対応します。
自分の権限では顧客が望む解決策を提供できないとき、答えや解決策を自分だけで持っていないとき、引き継ぎを遅らせると状況がさらに悪化しそうなときです。多くの企業の対応マニュアルでは、まず一次対応の担当者が解決を試みるよう定めていますが、少しだけ保留にして上司と手早く相談する方法や、必要ならすぐに責任者に代わる判断も有効です。
クレームは、製品やサービスの問題に対する顧客の正当な要求や不満で、この記事で扱う対応の対象です。一方、暴言や威圧的な言動、社会通念を超える要求などで従業員を害する行為はカスタマーハラスメント(カスハラ)として扱い、担当者個人ではなく組織のルールに沿って対応します。見極め方と企業の対策はカスハラ対策の記事で解説しています。
Zendeskでトラブルを優れた体験に変える
対応が難しい顧客への対応は、サポート担当者にとって最大の難題の一つです。何より大切なのは、顧客に敬意と共感をもって、辛抱強く接することです。そのうえで、適切なカスタマーサービスソフトウェアを選べば、チームの対応力を一段引き上げられます。Zendeskには豊富なカスタマーサービスの機能がそろっており、最初の対応で悪い印象を与えてしまった場合や、問題をすぐに解決できなかった場合も含め、あらゆるやり取りを優れた体験に変えるお手伝いができます。