顧客が企業と関わる一連の過程(カスタマージャーニー)には、カスタマーサービスの質がその後を左右する瞬間があります。すぐに答えが返ってくれば信頼が生まれ、対応に不満を感じれば顧客は他社へ目を向けます。その積み重ねが、顧客から見た自社ブランドの印象を形づくります。
そうした体験の中心にあるのがカスタマーサービスです。問題を解決するだけでなく、顧客から問い合わせや相談があったときに、いつでも同じ水準で応えられるかどうかが問われます。対応が頼りになると感じてもらえるかどうかで、顧客が残るか離れるかが決まります。この記事では、優れたカスタマーサービスの条件と重要性、そして安定して提供するために担当者に求められるスキルを解説します。
目次
カスタマーサービスとは
カスタマーサービス(customer service)とは、最初の接点から購入後まで、カスタマージャーニー全体を通じて企業が顧客に提供するサポートのことです。顧客が抱える問題の解決や購入前後の判断を手助けし、製品やサービスから価値を得られるようにすることを目的とします。優れたカスタマーサービスは顧客の信頼を築き、やり取りを重ねるごとに長く続く関係をつくっていきます。なお、「カスタマー」は顧客を意味し、日本では、こうした対応を担う部門や窓口(お客様相談室、サポートセンターなど)をカスタマーサービスと呼ぶこともあります。
カスタマーサービスが重要な理由
カスタマーサービスが重要なのは、優れたサポート体制が顧客維持率を高め、新規顧客の獲得を後押しし、既存顧客からの売上を増やし、顧客体験(CX、カスタマーエクスペリエンス)を向上させるからです。ZendeskのCXトレンドレポート2026年版によると、消費者の82%が、「商品・サービスを選ぶ際、迅速な対応と正確な問題解決をしてくれる企業やブランドを優先する」と回答しました。対応の質が、選ばれる企業かどうかを分けます。
並のカスタマーサービスと良いカスタマーサービスの差は、一見するとわずかに見えます。それでも企業は、差がどこにあるかを見極めて埋める必要があります。質の低いカスタマーサービスを経験した顧客や、大切に扱われていないと感じた顧客は、容易に他社へ目を向けかねません。一方、きちんと向き合ってもらえたと感じた顧客は、長く付き合い続けてくれる可能性が高くなります。
良いカスタマーサービスとは
良いカスタマーサービスとは、顧客の期待に毎回応えることです。迅速で、顧客の気持ちに寄り添い、実際に役に立ち、自社の顧客基盤ならではのニーズを踏まえた対応が求められます。
たとえば、問い合わせを受けた時点でおおよその回答時期を伝える、前回の問い合わせの内容を把握したうえで対応する、といった一つひとつの対応の積み重ねが、並の対応との差になります。
優れたカスタマーサービスは、決まりきった受け答えを、顧客との信頼とロイヤルティにつながるやり取りに変えます。問題を解決して終わりにせず、顧客が次に必要とするものを先読みして、期待を上回る体験を生み出します。
このようなカスタマーサービスは、顧客からは手間のかからない自然なものに見えます。その裏側を支えているのは、AIツール、十分な研修を受けた担当者、明確なプロセスです。ここまで整えば競争上の強みになり、満足した顧客が周囲に薦めてくれることで、紹介とリピート購入が成長を支えます。
優れたカスタマーサービスを実現する7つの方法

サポート体制を整える段階でも運用中でも、カスタマーサービスの質を高めるうえで押さえておきたいポイントは次のとおりです。
1. 担当者の研修を優先する
十分な研修を受けた担当者は、顧客対応をより的確に進められます。担当者が常に力を発揮できるよう、定期的なカスタマーサービス研修を優先して実施します。
重点的に伸ばしたいカスタマーサービスのスキルと資質には、次のようなものがあります。
共感:顧客が怒っているときに、こちらも身構えて弁解や反論に回れば、かえって不満を大きくします。相手の気持ちを理解していると伝え、解決に向けてできる限りのことをする姿勢を示せるよう、担当者を育てます。
傾聴:相手の話に耳を傾けることで、顧客の気持ちや要望、その背景にあるニーズを深く理解できます。顧客の発言に注意を向け、声の調子に加え、ビデオ通話や対面なら表情・身ぶりにも目を配ります。話をさえぎらず、最後まで聞いてから答えを考えます。
透明性:1時間も保留で待たされるのは、問い合わせた顧客が最も嫌うことの一つです。窓口が混み合っているときは、待ち時間の見込みを隠さず伝えます。
マルチタスク:チャットサポートでは、複数の会話を同時に進めながら、それぞれの顧客の話を聞いて答えを探します。得意な担当者は、質問が重なっても落ち着いていて、やり取り全体の状況を見失いません。
創造性:想定外の要望や質問は必ず出てきます。担当者には、顧客が求めていることを見極め、決まった答えがない場面でもその人に合った解決策を組み立てる力が必要です。
カスタマーファーストの姿勢:顧客の主張が常に正しいとは限りませんが、顧客自身がどう受け取ったかが、その顧客にとっての体験になります。顧客を第一に考える姿勢があれば、見解が分かれる場面でも、相手の受け取り方を踏まえて対応を考え、一人ひとりのニーズに合わせられます。ただし、不当な要求や暴言への対応は担当者個人に委ねず、組織として線引きを示しておくことが前提です。
デジタルリテラシー:顧客は、どのチャネルでも自然な対話を求め、やり取りする相手が自分の状況を把握していることを当然と考えます。それに応えて良いCXを提供できるよう、担当者は顧客対応で使う技術やツールに習熟しておきます。
ロールプレイング研修は、難しい局面を実際に迎える前に、これらのスキルを安全な環境で磨く良い機会になります。クレーム対応の具体的な進め方は、別記事「クレーム対応のコツ13選」で場面別に解説しています。
2. AIを活用して効率とROIを高める
カスタマーサービスにおけるAIと自動化は、もはや珍しいものではありません。定型作業の自動化から、担当者を支援するAIアシスタントの導入まで、顧客との接点全体にAIを広げる企業が増えており、AIは質の高い顧客体験を生み出すうえで欠かせない要素になっています。

AIに投資した企業は、事業全体で投資対効果(ROI)を実感しています。CXトレンドレポートでは、CXリーダー(CX部門の責任者)の71%が、「過去12か月のカスタマーサービス向けのAI投資でプラスのROIを達成した」と答えています。10人中7人のリーダーが成果を数字で確かめているという結果は、AIが「あれば望ましい技術」ではなく、競争力を保つための前提になっていることを示しています。
3. あらゆる体験を一人ひとりに合わせる
顧客は自分に合わせた体験(パーソナライズ)を期待しています。ターゲットを絞ったプロモーション、購入履歴に基づく商品のおすすめ、顧客ごとに合わせたサポート対応などを通じて、その期待に応えられます。
「AIが自分との過去のやり取りを分析できるようになった今、よりパーソナライズされたサービスを期待している」と答えた消費者は、CXトレンドレポートでは61%に達します。AIがデータの収集と分析を自律的に行い、次の対応のヒントまで出してくれるため、パーソナライズに手間がかかりません。担当者はその分、人にしかできない、相手に寄り添った対応に時間を使えます。
4. 既存のカスタマーサービスチャネルを見直す
現在のサービスチャネルを棚卸しし、顧客が最もよく使う手段でサポートできているかを確認します。あわせて、どのチャネルから問い合わせても経緯が引き継がれ、一貫した対応を受けられる状態(オムニチャネル)になっているかを見ます。顧客がそうした体験を求める度合いは、これまで以上に高まっています。
代表的なカスタマーサービスチャネルには、次のものがあります。
電話
モバイルメッセージング(LINEやSMSなど)
SNS
メール
どのチャネルでも行き届いた対応ができ、チャネルを移っても会話が途切れない状態を目指します。
5. 事業への影響に目を向ける
優れたカスタマーサービスの効果は、顧客との直接のやり取りにとどまらず、事業のあらゆる面に及びます。カスタマーサービスの戦略を事業全体の目標に沿わせると、どの対応が成果につながり、どこを改善すべきかが見えてきます。
「経営陣から、AI投資と顧客の問題解決を直接結び付ける指標を求められている」。CXトレンドレポートでそう答えたCXリーダーは64%に上ります。サポートの指標を事業の目標とそろえておけば、対応コストを相対的に抑えつつ顧客満足度とロイヤルティを高めたという形で、カスタマーサービスの価値を事業の成果として示せます。
6. システム同士を連携させる
まず、部門ごとに分かれている情報のサイロを取り除きます。カスタマーサポートツールやCRM(顧客関係管理)ツールを他のシステムと連携させ、データが滞りなく行き渡るようにします。顧客情報がシステムをまたいでつながれば、担当者は必要な情報にすぐアクセスでき、迅速で的確な対応ができます。
7. 測定できる目標を設定する
成果を体系的に測るには、まずカスタマーサービスのKPIを定め、カスタマーサービスの目標と顧客満足度の両方に結び付けます。主要な指標は、顧客の声(フィードバック)の感情分析のような定性的なものと、次のような定量的なものの両方から選びます。
それぞれの指標に、具体的で期限のある目標を設定します。たとえば、初回解決率を6か月以内に75%から85%へ引き上げる、平均応答時間を四半期で20%短縮する、といった目標です。週次や月次の会議で定期的に指標を見直し、傾向と改善が必要な領域を把握します。
よくある質問
ここまで述べた効果に加え、優れたカスタマーサービスには次のようなメリットがあります。
優れたカスタマーサービスは顧客の満足を保ち、事業の運営にも大きく影響し得ます。
カスタマーサービスは、より広い概念である顧客体験(CX)の一部です。カスタマーサービスが、顧客から問い合わせや相談があったときの直接のやり取りとサポートに焦点を当てるのに対し、CXは、ブランドを知り、購入し、製品やサービスを使い、その後も続く一連の過程で、顧客が企業と持つすべての接点を含みます。
要するに、カスタマーサービスは顧客が問い合わせや相談をしたときの対応そのもので、顧客体験は、顧客がブランドを全体としてどう感じるかを決める、すべてのやり取りと感情の積み重ねです。
カスタマーサポートは、カスタマーサービスの一部です。カスタマーサポートが、製品やサービスの使い方や不具合など、顧客が直面している具体的な問題の解決を担うのに対し、カスタマーサービスは、購入前の相談から購入後のフォローまで、顧客との関係全体にわたる対応を指します。両者の違いとサポート部門の役割は、別記事「カスタマーサポートとは」で詳しく解説しています。
カスタマーサービスは、顧客の状況や好みに応じて、次のような形に分かれます。
チャネルごとに役割と顧客の好みは異なります。多くの企業が、複数の接点で途切れのないサービスを提供するために、オムニチャネルの考え方を採用しています。
Zendesk CXトレンドレポートと業界の動向を踏まえると、カスタマーサービス部門の責任者は、顧客対応の進め方を根本から見直し、アップセルとクロスセルで企業の成長を支える手段として、対話型の生成AIへの投資を増やす計画です。CXトレンドレポートでも、CXリーダーの79%が、「今後1年でカスタマーサービス向けのAIテクノロジーへの投資を増やす」と回答しています。
Zendeskの導入企業では、AIエージェントがすでにやり取りの80%以上を自律的に解決する例が広がっています。この割合は今後さらに高まる見込みです。今後の焦点は、効率的なAIによる自動化と、顧客との関係を築く人の専門性との両立にあります。また、必要なときに人間の担当者へ円滑に引き継ぐことを、AIツールはこれまで以上に重視するようになります。
Zendeskのようなツールは、すでにこの段階に入っています。Zendesk AIは、実際のサービスでの数十億件に及ぶやり取りで事前学習されています。高い品質を保ちながら対応量を増やし、人を大切にしたサービスを提供することを第一の目標に設計され、必要なときには会話を人間の担当者へ的確に引き継げます。
最近のトレンドを全体として見ると、カスタマーサービスは、技術、顧客の期待、業務運営という3つの軸で進化しています。AIと自動化がスピードと効率を高める一方、顧客はより自分に合った、切れ目のない体験を期待するようになっています。
同時に、サポート部門はオムニチャネルと先回りのサポートへ移行しつつあります。最も効果的な戦略は、自動化と人の対応のバランスを取り、一貫した質の高い体験を提供することです。
カスタマーサービスのスキルは、実践、フィードバック、現場での経験を通じて磨かれます。中核となるのは、コミュニケーション、共感、問題解決、適応力です。
担当者は、難しい案件に対応し、結果を振り返り、コーチングや応対品質管理(QA)のレビューで受けたフィードバックを生かすことで、これらのスキルを伸ばします。ロールプレイングや自己評価も学びの定着に役立ちますが、力が伸びるのは、研修で学んだことを実際の場面で使ったときです。
顧客からの問い合わせへの対応、製品やサービスの使い方の案内、不具合やトラブルの解決、クレームへの対応が中心です。電話、メール、チャット、SNSなど、顧客が使うチャネルに合わせて対応します。担当者に求められるスキルや最近の動向は、別記事「カスタマーサポートの仕事内容とは」で紹介しています。
Zendeskでカスタマーサービスの目標を達成する
良いカスタマーサービスは、それ自体が市場で新しい取引を呼び込みます。逆に対応の質が低ければ、顧客は競合へ流れていきます。
CXの向上を自社だけで進める必要はありません。Zendeskは、担当者の作業画面を一つにまとめたエージェントワークスペース、メッセージング、レポート・分析を備えた統合的なカスタマーサポートツールとして、いつでも優れたCXを提供できるよう支援します。