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AI時代のCXを牽引するコンテクスチュアル・インテリジェンス
CXが「迅速な対応」から「インテリジェントでつながりのある体験」へ移行する理由
Julie Fox
Hyland社 デジタル&スケールドカスタマーサクセス ディレクター、『Customer Success Talent Playbook』共著者
多くの人が、こうした経験をしたことがあるはずです。サポートに連絡し、問題を説明し、必要な情報を伝える。スクリーンショットをアップロードし、短い動画を添付し、問題が発生した手順を正確に共有する。ところが、担当者が変わったり、別の担当者が加わったりした途端、すべてを最初から説明し直すよう求められる。一度や二度なら些細なことに思えますが、こうした場面が積み重なると、解決までの時間は延び、顧客の忍耐は消耗し、ブランド全体への信頼が静かに損なわれていきます。
長年、CXチームの評価指標は、ほぼ「対応速度」に集約されていました。より速い返信、より短い待ち時間、より短い対応時間。これらが優れたサービスの証とされ、一定期間は機能していました。
しかし、顧客の期待は変化しています。迅速な返信でも、問題が解決しなければ満足にはつながりません。素早い挨拶も、文脈が変わるたびに会話が途切れたり、最初からやり直しになったりするのでは意味がありません。顧客は今、解決の質、やり取りの継続性、そして余計な手間をかけずとも自分の状況を理解してもらえているという実感で、体験を評価しています。
顧客の期待は、多くの組織が対応できる速度を上回って高まっています。ZendeskのCXトレンドレポート 2026年版からもこの傾向は明らかであり、消費者の83%が「CXは現状よりはるかに優れているべきだ」と考えています。
だからこそ、コンテクスチュアル・インテリジェンス(文脈を理解するインテリジェンス)への移行が重要なのです。顧客は、自分のことを覚えているサービスを求めており、CXチームは、すでに持っている情報を引き継げるシステムを必要としています。AIはこのギャップを埋め始めており、あらゆる接点でより一貫性があり、直感的で、質の高い体験を生み出しつつあります。
主要なテーマに入る前に、今後の動向を示すいくつかの調査結果を紹介します。
CXリーダーの85%が、記憶型AI(過去のやり取りを記憶するAI)がパーソナライズされた体験に不可欠になると考えている
消費者の74%が、24時間対応を期待している
消費者の76%が、テキスト・画像・動画を1つの連続したスレッドで共有できる企業を選ぶと回答
リーダーの81%が、プロンプト駆動型アナリティクスが意思決定を変革すると考えている
消費者の95%が、AIがなぜその判断を下したのかを理解したいと考えている
これらの変化は、より大きな潮流を示しています。CXは「速さ」だけの時代を超え、解決の質、透明性、そして顧客がどこにいても引き継がれる文脈によって定義される時代へと移行しています。
1. 記憶型AIがパーソナライゼーションとロイヤルティを変える
顧客はもはや、パーソナライゼーションを付加価値とは見なしていません。当然の前提として捉えています。レポートによると、CXリーダーの85%が、記憶型AIがパーソナライズされた、しなやかなカスタマージャーニーの構築において中心的な役割を果たすと考えています。
記憶型AIは、過去の会話の詳細を保持し、次のやり取りに活用します。繰り返しの質問を減らし、チャネルを切り替えた顧客にも継続性を提供し、エージェントが複数のシステムを検索することなく必要な文脈を得られるようにします。
当然のことながら、消費者の74%が、同じ説明を繰り返すことに大きなストレスを感じると回答しています。すでに記憶型AIを活用している成熟度の高い組織は、顧客満足度(CSAT)の向上とロイヤルティ強化を報告する割合が2倍に達しています。パーソナライゼーションとは、顧客の負担を減らし、過去の履歴を認識することで、より人間らしい体験を生み出すことなのです。
なぜ重要か: このレベルのパーソナライゼーションは、ロイヤルティを強化し、顧客の負担を軽減するとともに、チームが一貫した体験を大規模に提供できるよう支援します。
2. AI搭載セルフサービスが初回解決率を再定義する
セルフサービスは、静的なナレッジベースから、顧客がいつでも機能することを期待するダイナミックなAI駆動型の手段へと進化しました。消費者の74%が24時間対応を期待しており、86%がサービスの速度と正確さが購買意欲に直接影響すると回答しています。
最初のやり取りの質が、これまで以上に重要になっています。CXリーダーの85%が、初回の問い合わせで問題が解決しなければ顧客はブランドを離れると述べています。
エージェンティックAI(自律的に行動するAI)は、この領域で重要な役割を果たします。ポリシーの詳細を取得し、返金処理を行い、複数のステップを要するタスクを完了し、従来は人の判断が必要だった意思決定を行うことができます。
このトレンドにより、AIが複雑なタスクを解決できるよう、ナレッジ、トレーニング、ワークフローへの投資が進んでいます。顧客は、実際に問題を解決するセルフサービスを期待しています。
なぜ重要か: 顧客は、問題を本当に解決する回答を求めています。初回で正しく対応することが、デジタル体験への信頼を築きます。
3. マルチモーダル対応が新たな標準になる
顧客は日常生活で複数のフォーマットを使ってコミュニケーションを取っています。テキストを送り、写真を共有し、画面を見せ、短い動画を撮影する。これらを意識することなく行っています。ブランドへの問い合わせでも、同じ体験を期待しています。
Zendeskの調査によると、消費者の76%が、最初からやり直すことなくテキスト・画像・動画を1つのスレッドで送信できる企業を選ぶと回答しています。
マルチモーダル対応により、顧客は最も自然な方法で問題を説明し、見せることができます。また、AIにより明確な情報が提供され、精度も向上します。CXリーダーはこの変化に期待を寄せており、86%がマルチモーダルエージェントこそサービスにおけるAIの次なる主流になると考え、85%がこれらの機能は顧客にとって魔法のように感じられると回答しています。
マルチモーダルツールの統合を今から始める組織は、摩擦を減らし、解決を加速し、顧客が自然にコミュニケーションを取る方法に合ったやり取りを実現できます。
なぜ重要か: 顧客がすでに使っているフォーマットで対応することで、明確化が加速し、やり取りの往復が減り、より自然なサポート体験が生まれます。
4. プロンプト駆動型アナリティクスがチームの働き方を変える
今年のレポートにおける重要な進展の一つが、プロンプト駆動型アナリティクスの台頭です。これらのツールにより、従業員は自然言語で質問し、正式なレポートサイクルを待つことなく即座にインサイトを得ることができます。
CXリーダーの82%が、プロンプト駆動型アナリティクスは従来なら数週間の分析を要したインサイトを引き出せると考えており、81%がこのようなアクセスは組織全体の意思決定を変えると見ています。
成熟度の高い組織は、成熟度の低いチームの2倍の速度でAI駆動型の指標を導入しています。CSATやFCR(初回解決率)に加え、自動化の完結率、ボット満足度、コンタクト単価といったパフォーマンス指標を補完的に活用しており、これらの指標によってチームは摩擦点をより速く特定し、より意図的に体験を改善できます。
なぜ重要か: チームがインサイトに即座にアクセスできれば、より良い意思決定を行い、問題をより速く解決し、顧客に影響が及ぶ前に摩擦を特定できます。
5. 透明性が信頼の中核になる
AIがCXにより深く統合されるにつれ、明確さと透明性の重要性が増しています。レポートによると、消費者の95%がAIの判断の根拠を理解したいと考えており、透明性への期待は昨年比で63%増加しています。
しかし、自動化された判断の根拠を顧客やエージェントに提供している組織は、現時点でわずか37%にとどまります。成熟度の高い組織はより迅速に対応しており、86%がすでにAIの推論コントロール(明確でシンプルな説明を提供する機能)を導入済み、または導入を計画しています。
透明性は信頼を築き、混乱を減らし、顧客との関係を強化します。最終的な回答が顧客の期待どおりでなかったとしても、理由を理解することで、そのやり取りに対する受け止め方は変わります。
なぜ重要か: 明確な説明は信頼を築き、顧客がAI駆動型サポートに安心して向き合えるようにします。
CXの未来は、意図を持って行動する組織のものになる
CXトレンドレポート 2026年版では、コンテクスチュアル・インテリジェンスを取り入れた組織は、速度、パーソナライゼーション、解決の質、顧客からの信頼のいずれにおいても優れた成果を上げており、実際にZendesk顧客の97%がAI投資からプラスのROIを得ていると明らかにしています。
CXの次の時代では、顧客とエージェントに必要な継続性を提供し、ジャーニー全体の摩擦を減らし、AIを活用してシンプルで直感的かつ人間らしいと感じられる体験を生み出すチームが評価されます。機会はすでに目の前にあります。意図を持って行動するリーダーが、2026年における優れたCXの基準を打ち立てていくでしょう。
