
インスタントグラティフィケーション(瞬間的な満足感)が得られる今日のデジタル社会では、利便性に勝るものはありません。数回のクリックだけで、映画、音楽、食事、それらすべてが手元に届くようになりました。これまで店頭で購入していたものも、今ではほとんどがオンラインのショッピングカートに入れて購入できます。
このように購入体験がより気軽に進化するにつれ、カスタマーサービス体験も同様に進化する必要があります。つまり、リアルタイムで欲しいものが手に入る現代の顧客は、電話での長時間の保留など、手間のかかる体験を望んでいません。
そのため、顧客を維持し増やすためには、カスタマーエフォートスコア(CES、顧客努力指標)の追跡と改善が重要になります。それにより、顧客に手間をかけず、快適な体験を提供することが可能になります。
本記事では、そのための具体的な手段として、カスタマーエフォートスコアの定義や重要性、計算方法、そしてカスタマーエフォートスコアを改善するための5つの方法を詳しく説明します。
カスタマーエフォートスコアとは
カスタマーエフォートスコアとは、顧客が企業から必要とするサービスを利用する際に、どれだけの労力を必要とするかを評価する指標です。これには問題の解決や質問への回答、特定のタスクの完了などが含まれます。カスタマーエフォートスコアの最終的な目標は、いかに労力のかからない体験を顧客に提供できるかにあります。
カスタマーエフォートスコアは企業がアンケートを通じて調査を行うことが可能です。一般的な調査方法としては、顧客に対して企業とのやりとりが「非常に簡単」か「非常に困難」かを評価してもらうものがあります。カスタマーエフォートスコアが高い場合は、顧客が企業と楽にやり取りを行えていることを示し、一方でカスタマーエフォートスコアが低いと、顧客が企業とのやり取りにおいて労力を必要としており、通常は不満が存在していることを示唆します。
カスタマーエフォートスコアが重要な理由
カスタマーエフォートスコアは、詳細な背景情報を交えて考察することで、より有益なものとなります。 あらゆるサポートチャネルや企業が顧客と接する場面でこの指標を追跡することで、スムーズな体験を実現しているチャネルやタッチポイントと、そうでないものを把握することができます。
カスタマーエフォートスコアを分析することで、顧客が特定の行動に苦労している場面を見つけることが可能になります。例えば、コンタクトセンターへの電話問い合わせは「非常に簡単」だと感じている一方で、セルフサービス型サポートコンテンツのの利用は「少し難しい」と感じているかもしれません。このような情報を基にして適切な調整を行うことで、顧客のロイヤルティと維持率を改善することができます。
カスタマーエフォートスコアの活用
カスタマーエフォートスコアが、次の3つのシナリオでを計算・追跡することで、最大限に活用することができます。
- 顧客がサポートチームとやり取りをした直後: サポート担当者が、顧客が容易に問題を解決できるようサポートできているか評価できます。
- 製品チームのユーザーインターフェイス(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)テストの実施時: 顧客が製品をどれほど簡単に操作できたかについてフィードバックを取得できます。
- 顧客のインタラクション(例えば資料のダウンロード)が購入やサブスクリプションにつながった場合:顧客がコンテンツをダウンロードし、それが購入やサブスクリプションにつながった場合、その過程がどれほど簡単であったか、または難しかったかを評価できます。
カスタマーエフォートスコアアンケートを定期的に行うことで、顧客体験における潜在的な問題点を明確にし、それらを改善するための施策を考えることが可能になります。
カスタマーエフォートスコア調査とは
カスタマーエフォートスコア調査は、短いアンケート形式で行われ、特定のタスクを完了することがどれだけ簡単だったか、あるいは難しかったかを測定するために既存顧客に向けて実施します。
一般的に、企業が利用するカスタマーエフォートスコア調査には下記の3種類あります。
- 0~10段階評価(0は「非常に難しい」、10は「非常に簡単」)」またはリッカート尺度を使用して、「全くそう思わない」から「非常にそう思う」までの5段階または7段階から選択
- 賛成と反対の2択質問
- 😃 / 😐 / 🙁 など、感情を象徴する絵文字や顔文字のアイコンから選択
段階評価をした場合のカスタマーエフォートスコアの計算方法は、賛成と反対、絵文字や顔文字を使った場合とことなります。
さらに注意すべきは、顧客努力を評価する方法はカスタマーエフォートスコアだけに限らないということです。その他のカスタマーサービスに関する指標を確認しながら、これらをモニタリングすることも忘れないようにしましょう。下記は顧客努力の評価に関連するカスタマーサービス指標の一例です。
- 顧客満足度(CSAT)
- NPS®(NPS)
- 顧客とサポートチームとの接触回数
- 顧客がカスタマーサービスに連絡する平均回数
- チケット(問い合わせ)の解決までの時間
- チケットを送信したリクエスタ(問い合わせをした顧客)の待ち時間
- 初回返信時間
カスタマーエフォートスコアアンケートの作成方法
顧客とやり取りをした直後は、短く簡単なカスタマーエフォートスコアアンケートで顧客からのフィードバックを集めましょう。
アンケートに入れるべきカスタマーエフォートスコアの質問例には以下のようなものがあります:
- [0–10]の評価で、問題を解決するのはどれくらい簡単でしたか?
- 問題を迅速かつ正確に解決することができましたか?
- 質問の回答を見つけるのに、どれだけの労力を要しましたか?
- デモ動画の閲覧(例)はどれくらい簡単でしたか?[0–5]で評価してください。
Zendeskでアプリの統合を活用すると、チケットの更新や解決時など、特定のやり取りの直後にアンケートを送信することができます。
ご使用のCRMにこのような機能が組み込まれていない場合も、カスタマーエフォートに関するアンケートを作成して送信できる無料のツールがあるため、それらを活用できます。 TypeformとSurvicateでは、顧客努力に関するデータの収集に役立つ、カスタマイズ可能なカスタマーエフォートスコア調査テンプレートを提供しています。 または、Googleフォームを使ってカスタマーエフォートスコアアンケートを作成することもできます。
どのようなツールやテンプレートを使うにせよ、自由回答式の質問を入れることで、顧客がより詳しいフィードバックを残せるようにしましょう。
カスタマーエフォートスコア調査のアンケート例
例1-1 どれほど簡単に問題解決ができましたか?
10段階評価から1つを選択
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
(1が非常に困難、10が非常に簡単) 例1-2 その他に私たちへのフィードバックはありますか?
なぜ7/10の評価をつけましたか?
回答は自由記述 例1-3 今回のサポートで、より良い対応を実現するために、どこを改善すれば良いと思われますか?
回答は自由記述 例2-1 最近の体験をもとに、私たちとのやり取りは簡単に行えましたか、それとも困難でしたか?
下記選択肢から1つを選択
– 非常に困難
– やや困難
– 普通
– やや簡単
– 非常に簡単 例2-2 目的は達成できましたか?
下記選択肢から1つを選択
– はい
– いいえ
– わからない 例2-3 どのようにすれば、私たちとのやり取りを今後改善できるか教えてください。
回答は自由記述 出典: Typeform、Survicate
カスタマーエフォートスコアの計算方法
カスタマーエフォートスコアの調査結果が出たら、カスタマーエフォートスコアを計算しましょう。 10段階評価またはリッカート尺度を使用した場合、以下のカスタマーエフォートスコア計算式を活用します:
カスタマーエフォートスコアの計算式
10段階評価の場合
カスタマーエフォートスコア = カスタマーエフォートスコアの得点合計÷調査回答数
賛成と反対の二択式の場合は、肯定的な回答の割合から否定的な回答の割合を引き、カスタマーエフォートスコアを算出します。
カスタマーエフォートスコア = 肯定的な回答の割合 – 否定的な回答の割合
顔文字や絵文字式の場合も同様で、肯定的な回答の割合から否定的な回答の割合を引いてカスタマーエフォートスコアを計算します。(中立的な回答は除外)
カスタマーエフォートスコア = 肯定的な回答の割合 – 否定的な回答の割合
例えば、300人の顧客からアンケートの回答を受け取ったとしましょう。そのうち250人が肯定的な回答で、50人が否定的な回答だったとします。まずは各タイプの回答の割合を求めます:
- [(250 ÷ 300) x 100 ]×100=肯定的な回答は83.33%
- [(50 ÷ 300) x 100]×100=否定的な回答は16.66%
- これらの数字を元に、肯定的な回答の割合から否定的な回答の割合を引いてカスタマーエフォートスコアを算出します。
カスタマーエフォートスコアは83.33 – 16.66 = 66.67
カスタマーエフォートスコアのスコアが高いほど、顧客が求める情報やサービスを容易に手に入れられていることを示しています。よりストレスのない顧客体験を提供できていれば、そのブランドを継続して利用する可能性が高まります。つまり、高いカスタマーエフォートスコアは、低い顧客離脱率につながります。
優れたカスタマーエフォートスコアとは
まず言えることは、カスタマーエフォートスコアが高いということは、カスタマーエフォートスコアが優れているということです。ただし、一般的なベンチマークや業界標準というものは存在しないため、自社の過去のスコアが最も重要な比較対象となります。どのような状況であれ、カスタマーエフォートスコアは定期的に追跡すべき重要な顧客満足度の指標となります。
カスタマーエフォートスコアが期待値を下回り、一定期間改善しない場合は、サポートチームは下記の項目を検討して取り組みを見直すべきです:
- 顧客が答えを得るまでに、いくつのチャネルや部署を経由しなければなりませんでしたか?
- 一つのチケットで問題は解決しましたか?それとも、同じ問題や関連する問題で、顧客が再度問い合わせる必要がありましたか?
- 問題解決までのカスタマージャーニーの各タッチポイントでの所要時間はどれくらいでしたか?
- 問題解決の妨げとなった特定のプロセスや障害は何かありましたか?
- どのようなリソース、ワークフロー、スキルが、迅速な解決に寄与しましたか?
- サポート担当者は適切に問題を解決するために必要なリソースを持っていましたか?
- 現在、顧客やサポート担当者からのフィードバックに基づいて、どのように改善策を実施し、追跡していますか?
これらの質問を通じて、問題が発生しそうな箇所に対して先手を打てば、カスタマーエフォートスコアの改善へとつなげることができます。
カスタマーエフォートスコアを改善する5つの手法
ワークフローの見直しから補足的なカスタマーサービストレーニングまで、顧客の満足度を向上させ、労力を低減するための手法はいくつか存在します。本記事では、5つの手法をご紹介します。
1. サポート担当者が効率的に業務をこなせるツールを提供する
サポート担当者が顧客とのやり取りをスムーズに行い、その結果顧客との関係を良好に保つためには、高機能なカスタマーサポートツールの導入が効果的です。
例えば、Zendeskの活用により、サポート担当者はよくある質問に対して事前に設定された回答を提供することができます。このような便利なマクロは一つのクリックで迅速な顧客対応を可能にします。
また、社内でナレッジマネジメントシステムを有効に活用すれば、情報を素早く検索し、適切な解決策を提供することが可能になります。Zendeskのナレッジキャプチャーアプリを利用すれば、サポート担当者はチケットビューからナレッジベースの記事を検索し、チケットの言語に基づいて推奨記事を顧客に送信することが可能です。
サポートツールを導入したら、サポートチームから改善点のフィードバックを収集し、これを元にサポート業務を改善し、これが最終的に顧客体験の向上につながるような改善策を実施しましょう。
2. 解決を最優先にするサポートトレーニングを導入する
チーム全体で顧客対応の検証を定期的に行い、顧客の労力を軽減できる改善点を共有しましょう。例えば、通話のモニタリングは、コールセンターのスタッフを教育する効果的な方法となります。録音された通話は補足トレーニングの教材として使用することも可能です。もしスタッフが通話の共有をためらうなら、1対1のフィードバックセッションを検討してみてください。
カスタマーエフォートスコアの向上に役立つその他のトレーニング手法を以下に紹介します:
- サポート担当者が自社の製品やサービスに完全に詳しいことを確認する。消費者は担当者とのやり取りを何度も繰り返すのを嫌いますし、長時間待つことも望みません。そのため、顧客の問い合わせを保留にしてより詳しい担当者への転送は避けるべきです。
- サポート担当者に問題解決を優先する権限と自律性を与える。顧客の問題を解決するために、もしサポート担当者が常に判断を下すための許可を求める必要があるとすれば、それは解決プロセスに遅延を引き起こし、顧客の待ち時間を長引かせる可能性があります。
- サポート担当者のソフトスキルを磨く。顧客は、真剣に話を聞き、問題を解決し、優れたコミュニケーション能力を持つ担当者を望んでいます。チームがこれらのソフトスキルといわれる接客のマナーを身につけていることを確認し、カスタマーエフォートスコアのマイナス影響を最小限に抑えましょう。
3. 自己解決の選択肢を提供する
サポートチームがパスワードのリセットや基本的な請求書関連の問題に対応する時間を減らすためには、よくある質問に対してAIを搭載したチャットボットを活用しましょう。
ボットは一般的な簡単な質問に対して即座に回答ができるため、顧客にとっては迅速な対応が可能となります。特に、FAQページやナレッジベースなど、他のセルフサービスリソースと併用することで、より複雑な問題を抱えた顧客に対してもサポートチームの手間を軽減し、対応できます。
待ち時間を短縮し、顧客の自己解決を促す充実したリソースを提供することで、不必要な労力を削減し、顧客が必要な解決策を得られるようサポートしましょう。
4. オムニチャネルサポート戦略を導入する
現代の消費者は、あらゆるサポートチャネル間でスムーズに行き来できるオムニチャネルカスタマーサービスを求めています。このような顧客体験を提供することは、顧客の労力を減らし、顧客維持率を改善するために不可欠です。
ZendeskのCXトレンドレポート2022によると、91%の顧客がカスタマーサービスにおける好みの連絡手段を提供している企業から購入する傾向にあると回答しています。また、企業への問い合わせ時にソーシャルメッセージングアプリを利用する顧客が増えており、WhatsApp、Facebook Messenger、あるいは特定の地域で人気のあるWeChatやLINEを使ったサポートへの問い合わせの数は、2021年に36%も増加し、他のどのコミュニケーションチャネルよりも多くなっています。
Zendeskの一元化されたエージェントワークスペースを使用すれば、あらゆるコミュニケーションチャネルから発生するすべてのチケットに一元的にアクセスできます。
サポート担当者はこれらのチケットとチャネルを簡単に切り替えることができ、そのために必要な情報は一元的にまとめられます。すべての顧客情報が一つのワークスペースで即座に利用できるようになることで、顧客の問題に対する対応をより迅速かつ容易に行うことができます。
5. 顧客データを有効に活用する
顧客からのフィードバックの評価を通じて、カスタマーエフォートスコアスコアが何を示しているのか理解しましょう。必要であれば、顧客にフォローアップのアンケートを実施し、製品やサービスの利用中に経験した困難について詳しく尋ねてみましょう。
さらに、カスタマーエフォートスコアのデータをセグメントに分割し、改善すべき領域を特定しましょう。例えば、サービスチャネルごとにカスタマーエフォートスコアを比較することをお勧めします。電話での問い合わせが「非常に簡単」だが、ウェブベースのヘルプデスクでの問い合わせが「困難」と顧客が感じている場合、どのチャネルに注力すべきかは明確になります。
また、「アカウント作成」や「ショッピングカート」など、タスクごとにサポートリクエストを分類することも効果的です。特定のタスクで高い労力を必要とするとカスタマーエフォートスコアが示している場合、アンケートの自由形式回答を分析し、労力を必要としている箇所を明らかにしましょう。
サポート担当者の労力を軽減して顧客の労力の軽減へ
サポート担当者の労力とカスタマーエフォートスコアは直結しています。マクロ、セルフサービスオプション、一元化されたワークスペースといったツールを用いてサポート担当者の負担を軽減すれば、それが顧客体験の向上につながります。サポート担当者が問い合わせを迅速かつ容易に解決できる環境を整備し、顧客満足度を高めましょう。