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従業員のエクスペリエンスがカスタマーエクスペリエンスの質に直結する理由

ZendeskのCIO兼オペレーション担当シニアバイスプレジデントのColleen Berubeが語る、従業員のエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスの切っても切れない関係性とは

発行日: 2021年7月22日
更新日: 2021年8月7日

このたび筆者は、ZendeskのCIO兼オペレーション担当シニアバイスプレジデント、Colleen Berubeに話を聞く機会を得ました。Berubeと話をするのはこれで2度目になりますが、今回彼女は、自宅のある米国カリフォルニア州サンマテオからZoomを介してインタビューに応じてくれました。背景に映る彼女の自宅の裏庭は実にのどかでしたが、現実にはそのとき、カリフォルニアでは大規模な山火事が発生しており、街は煙に覆われ、さらには新型コロナウイルスの影響で外出自粛ムードも漂っていました。数か月前にはとても考えられない状況でした――半年ほど前、サンフランシスコのダウンタウンにあるZendeskの本社でBerubeの入社1周年を祝う場が設けられ、その直後、私たちはガラス張りの会議室で初めて言葉を交わしたのです。

そのとき、Berubeはこのように話していました。「カスタマーエクスペリエンスを軸とする企業に入社できるなんて、このうえないことだと感じました」結局のところ、エクスペリエンスとはユーザーが何かを代償に手に入れるものです。魅力的かどうか、スムーズかどうかなど、注意すべきポイントはいくつもありますが、重要なのは、顧客のニーズをすばやく的確に満たすことです。

「カスタマーエクスペリエンスがどのように変化していくのか、また、テクノロジーやその市場によってお客様のニーズがどのように増大していくのかなど、カスタマーエクスペリエンスの動向に強い関心を抱いていたのです」(Berube)

Berubeは以前、Adobeでビジネスサービス担当バイスプレジデントを長く務めた後、Fisher Investmentsでエグゼクティブバイスプレジデント兼最高技術責任者、PwCでレジデンスエグゼクティブといったポジションに就いてきました。各社の成長期に大きく貢献してきたのです。今年3月に話を聞いた際、Berubeは次のように話していました。「企業の成長期に感じられるスピード、エネルギー、ポジティブな空気といったものに惹かれます」

「カスタマーエクスペリエンスがどのように変化していくのか、また、テクノロジーやその市場によってお客様のニーズがどのように増大していくのかなど、カスタマーエクスペリエンスの動向に強い関心を抱いていたのです」- Colleen Berube

デジタルトランスフォーメーションへの取り組みは不可欠

今日のCIOに求められている役割は、従業員の働きをただ見守ることではなく、顧客と向き合いデジタルトランスフォーメーションを推進することです。社内の各チームの顧客に向けた取り組みを俯瞰し、それを線としてつないだうえで、社内全体で運用できるインフラストラクチャーを構築する必要があります。

アナリストによると、パンデミック前から加速していたトレンドは、今さらにそのスピードを上げているようです。GartnerのWebサイトにも、「デジタルビジネスのスピードは今後さらに加速か」との記事が掲載されています。同社のCFO/CHRO顧問バイスプレジデントであるScott Engler氏は、パンデミックの影響でデジタルトランスフォーメーションが数年分前倒しで進んでいると述べています。

McKinseyのレポートでも同様に、「奇妙に思えるかもしれませんが、この困難な時期こそ、デジタルトランスフォーメーションを大胆に進めるべき絶好のときなのです」として、このようなタイミングは二度と来ないと強調しています。

「奇妙に思えるかもしれませんが、この困難な時期こそ、デジタルトランスフォーメーションを大胆に進めるべき絶好のときなのです」- McKinsey”

Berubeにとって、この数か月は検証と挑戦の連続でした。他の多くの企業と同様、Zendeskもリモートワークに完全移行しましたが、製品や社内で使われているテクノロジーがクラウドベースだったおかげで、移行は非常にシームレスに進みました。

「私の周りのCIOは皆、完全なクラウドベースのSaaSソフトウェアによって、諸々の検証や新しい働き方に対応することができ、今後の状況に備えるにもそうしたソフトウェアは必要不可欠だと話していました」(Berube)

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従業員と顧客のエクスペリエンスを基軸にプラットフォームを再構築

新型コロナウイルスの流行前から、Berubeは既に、Zendeskの運営体制の変革に熱心に取り組んでいました。「現代的な企業の模範的存在になりたいという強い思いがありました。目標は、自分たちが最初にZendesk製品を一番よく理解しているユーザーになることです」

これを達成するには、Zendesk製品の社内での使われ方を徹底的に見直すことが求められました。そこで必要になったのが、Zendesk Sunshineプラットフォームの再構築です。この再構築と、社内のプロフェッショナルなサービスチーム、カスタマーサクセスチーム、ソリューションコンサルティングチームからの協力によって、Zendeskはカスタマーエクスペリエンスに関する貴重なインサイトを獲得し、その改善の糸口をつかむことができました。

「現代的な企業の模範的存在になりたいという強い思いがありました。目標は、自分たちが最初にZendesk製品を一番よく理解しているユーザーになることです」

Berubeいわく、こうした取り組みの目的には、Zendesk製品を使って従業員の業務をスムーズにすることのほかに、「従業員が顧客と同じ視点から製品を利用できるようになる」ことも含まれていました。実際の業務で使うことで、従業員は自社の製品をよく理解できるようになり、カスタマーエクスペリエンスについての理解も深められ、顧客に適切な提案を行える真のエバンジェリストになれるというわけです。

従業員のエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスは、切っても切れない関係にあります。Forresterが先日発表したレポートによると、従業員のエンゲージメントが高い企業の81%では顧客満足度も高く、離職率は50%程度に抑えられ、さらに圧倒的な競争力を誇っていることもわかりました。

「CIOはテクノロジーを学ぶだけでなく、それをビジネスにどう役立てるのかを学ぶ必要があります。また、自社の事業と各部門の役割についてもしっかりと理解しておかなければなりません。現在、ITの役割はテクノロジーを支えることにとどまりません。意思決定の根拠となり、アーキテクチャやソリューションを定義し、あらゆるものを連携するサービスを開発してくれます」(Berube)

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「現在、ITの役割はテクノロジーを支えることにとどまりません。意思決定の根拠となり、アーキテクチャやソリューションを定義し、あらゆるものを連携するサービスを開発してくれます」(Berube)

製品やサービスを販売する企業が営業エクスペリエンスを重視するのは当然のことですし、eコマースならデジタルエクスペリエンスを、カスタマーサービス部門ならサポートエクスペリエンスを重視するでしょう。しかし、今日ではどんな企業・部門も、カスタマーエクスペリエンス全体の構築、測定、そして継続的な改善を行う必要があります。「社内の各部門の取り組みをよく理解できれば、カスタマーエクスペリエンス全体を向上させることができます」(Berube)

従業員がエクスペリエンスの重要性を理解して、その全体像を捉えられるようにするため、Berubeは、「カスタマーエクスペリエンス向けシステム」と「従業員エクスペリエンス向けシステム」といった2つの重要な分野に沿ってチームを再構築しました。「どちらにもZendeskを使い、チームメンバーに、それぞれのエクスペリエンスを外側からの視点で集中的に捉えてもらおうと考えました」

消費者が企業にオムニチャネルエクスペリエンスを期待しているのと同様に、Zendeskは将来的に、従業員に対しても「どこからでも利用できる」エクスペリエンスの提供を目指しています。具体的には、従業員が電話、チャット、メール、Slackなどのあらゆるチャネルを使って、人事、財務、ITなどのさまざまなトピックについて質問、相談でき、簡単に情報を得られたり、サポートチケットが自動的に作成されるような仕組みを実現したいと考えています。「Zendeskのテクノロジーを活用して、こうしたビジョンの実現を目指しているところです」(Berube)

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アジリティと拡張性を念頭に置いた将来設計

入社後しばらくして、BerubeはCIOに加え、オペレーション担当シニアバイスプレジデントの役割も兼任することになりました。今ではグローバルIT、オペレーション、ビジネスアプリケーション&エンタープライズアーキテクチャ、エンタープライズデータ&アナリティクス、グローバルプログラムマネジメントを統括し、200人以上の従業員を監督しています。

Berubeもよく認識しているとおり、企業の成長のカギは柔軟性です。このため、今年Zendeskでは、購買エクスペリエンスの改善と簡素化、顧客ライフサイクルにおける重要なタッチポイントの最適化(ワークフロー管理テクノロジーの導入など)、従業員エクスペリエンスの見直し(Zendeskインスタンスの再構築、イントラネットの変更、自動化の適用範囲の拡大など)といった取り組みに注力してきました。要するに、バックエンドで従業員を支援して、顧客対応を効率化しようと考えたのです。

Berubeは次のように話します。「この1年間の取り組みによって、カスタマーエクスペリエンスにおけるいくつかの問題の根本的な原因が明らかになりました」彼女のチームが行った変革によって、今年の上半期には2,500万ドル規模でセルフサービスが拡張され、従業員の作業時間を約2,800時間、顧客のクレジットを25%削減することにつながりました。

要するに、バックエンドで従業員を支援して、顧客対応を効率化しようと考えたのです。

成長著しい企業のITチームは、グローバル展開に向けて(Zendeskは世界各地に17の拠点を有しています)、急速な成長、増加し続ける従業員へのオンボーディング、そしてリモート中心の働き方に対応しながら、企業が規模を拡大できるように備えなければなりません。柔軟なクラウドベースのアーキテクチャを構築すれば、常に現状を把握しながら、業務効率を高めつつ収益を拡大できるような施策を取り入れるタイミングを探ることができます。

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「スピードとアジリティはZendeskが最も重視している要素です。ITによって、その2つが達成されると共に、その成果も実証されています」(Berube)

Berubeによると、今日の市場に出回っているテクノロジーの数は膨大で、企業のリーダーには山ほど選択肢がある状況です。マーケティング分野に限っても、8,000以上のソフトウェアが存在します。25年ほど前であれば、IT部門のリーダーは、たいていコンピューターサイエンスを専門的に学んできた人物に限られていました。しかし、現在のソフトウェアはより洗練され、多くの人が簡単にアプリケーションを管理できるようになっています。Berubeも次のように話しています。「企業のリーダーは、従業員を管理し、統制するという立場から、正しい方向に導き、まとめるという立場に変わっていくべきです。従業員やビジネスのニーズを理解することが求められ、そうすることで、そのニーズに合うテクノロジーを選んで、ビジネスを成長させることができます」