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顧客体験設計(CXD)とは?軸となる考え方と基礎知識、実践方法を解説

更新日: 2024年1月6日

近年、あらゆる分野で顧客体験の重要性が注目されています。自社ブランドの競争力を高めていくうえでは、顧客体験を通じた差別化が大きなポイントです。顧客体験は企業とのあらゆる接点において生じる、顧客側の感情や行動、経験といったものの総称とされています。

顧客体験は顧客が商品やサービスを選ぶ際の、すべての段階において影響を与える要素です。顧客体験設計は、この顧客体験をあらかじめ企業側が設計し、望む方向へ導く手法となります。本記事では、顧客体験設計の考え方と実践について解説します。

顧客体験を主体的に設計する意義と重要性

顧客体験設計とは

顧客体験設計は、CXD(Customer Experience Design)と表記される場合もあります。
CXは顧客体験を表し、商品やサービスの認知から購入後のサポートに至るまで、そのプロダクトに関わるすべての体験価値を意味する概念です。

より詳しく言えば、CXとは顧客と企業との間に生じるあらゆる接触点で顧客が経験するものを指し、製品やサービスそのものだけでなく、コミュニケーション、顧客対応、販売手法、ブランド価値、顧客プログラムなどのすべてが含まれます。顧客体験設計では、CXを企業側が主体的に設計し、意図に沿った顧客体験を提供できるように導きます。

混同されがちな言葉として、UX(User Experience)があります。UXはユーザー体験を示し、商品やサービスを利用するエンドユーザーの体験価値を意味する概念です。
これに対して、CXは商品・サービスのユーザーだけではなく、企業やブランドに関わるすべての見込み客と顧客を対象とするという違いがあります。

UXは製品やサービスの特定の部分に焦点を当て、具体的な機能、操作、デザイン要素などにおける体験向上を目指しており、購買プロセス全体の体験価値を示すCXの一部としてとらえられるでしょう。

顧客体験設計の重要性

購買プロセス全体の体験価値となる顧客体験設計を行うということは、消費者との関わり方を企業が率先して定義することを意味します。CXDに着目する重要性としては、以下が挙げられます。

  • 背景となる消費者行動の変化

    現代の消費者行動は、「モノ」から「コト(体験や経験)」へと価値感がシフトしたと言われています。これは、購買プロセスにおいて、より良い体験が重視される時代の到来を示しています。

  • 収益への貢献

    顧客体験の向上は、収益を増加させる要因のひとつです。購買プロセス全体を通じて満足度の高い経験を提供できれば、顧客がブランドを継続的に利用し、再購入を行う可能性が高まります。さらに、満足した顧客はブランド推奨者となり、その口コミが新規顧客を引き寄せ、企業の市場シェアやブランド力を向上させる役割を果たします。

    また、良好な顧客体験は長期的な顧客ロイヤルティを生み出し、顧客生涯価値(LTV)を高めることで、持続可能な収益成長が実現できます。

  • ブランド価値の向上・維持

    企業が良好な顧客体験を提供することができれば、ブランドへのポジティブな印象が増し、消費者からの愛着、支持、信頼性を高めることができます。

    現代社会では、SNSの影響力が増大しており、良い体験だけでなく、悪い体験も一瞬で広まる可能性があります。ネガティブな投稿がSNSで拡散されれば、ブランド価値に大きく傷がつきます。ブランドイメージが低下すれば、先述した収益の大幅な低下にも繋がります。ブランド価値に加えて、収益の観点からも、これまで以上に企業は顧客体験に気をつけ、良い口コミを生み出し、ブランドの信頼性が向上させる必要があります。

  • 競争優位性の構築

    市場が飽和し、商品のコモデティ化が進む現代において、単なる価格や機能による差別化では競合との優位性を確保することが難しくなっています。このような状況において、消費者を中心として顧客体験の設計・提供を行うことは、競合との差別化を図り、自社の優位性を獲得する重要な要素となります。

顧客体験設計の軸となる考え方

顧客中心のアプローチ

顧客体験設計は、顧客を中心に考えることから始まります。製品やサービスは、顧客の目線で最適化され、改善されます。顧客ニーズを優先し、顧客が製品やサービスをどのように使い、どのような体験を求めているかを常に中心にすえて考えます。

顧客中心のアプローチとするためには、顧客情報収集、フィードバックの活用などを行い、顧客体験の現状を把握することが必要です。調査と分析をもとに、ニーズとのズレ、満足度の不足など課題を洗い出し、理想的なアプローチを実現します。

全体設計の視点

顧客体験設計は、顧客との接点全体を考慮することが重要です。具体的には、製品の使用、顧客サービス、マーケティング、ブランドイメージなどの要素すべてが対象です。顧客が企業やサービスとの接点でどのように感じ、行動するかを包括的かつ戦略的にとらえていきます。効果的な設計にするためには、顧客が最初に製品やサービスに触れ、それを利用し続ける全体の経路を考慮する必要があります。

各接点をばらばらにとらえるのではなく、複数のチャネルを統合し、シームレスなエクスペリエンスを提供することを意識します。また、顧客体験は単なる製品やサービスだけでなく、人との関わりも重要です。顧客がどのような感情を抱きやすいか、どの状況で喜びや不満が生まれるかを理解し、これらの要素をデザインに取り入れることが大切です。

デザイン志向

顧客体験設計においては、デザインが重要な要素となります。これには、視覚的な要素だけでなく、ユーザビリティやインタラクションの設計、プロセスの設計等も含まれます。デザインを通じて顧客体験を最適化し、顧客の感情的満足度を高めることが必要です。常に変化する顧客ニーズに対応する設計とデザインを調整しながら、顧客中心のアプローチを維持します。

使いやすいデザイン、利用へのハードルが低い、いつでも対応してくれる、欲しい情報が手に入りやすいなど、顧客にとっての利用のしやすさは大きな要素です。

顧客体験を設計する方法

顧客体験の要素

顧客体験は、企業が消費者と接するあらゆる接点から構成されますが、事前の経験、直接の経験、そして事後の経験と、3つの要素に分けることができます。

  1. 事前の経験
    顧客が製品やサービスについて調査し、情報を収集する初期段階を指します。広告、Webサイト、SNSなどの情報源は、顧客が初めて製品やサービスを認識し、理解するきっかけとなります。
  2. 直接の経験
    顧客が製品を購入し、実際に使用する経験やサービスを利用する経験を指します。価格や製品の機能性、使いやすさ、パフォーマンスなどが顧客の満足度に直接影響します。
  3. 事後の経験
    製品の購入やサービス利用後の経験を指します。顧客サポートやアフターサービス、メンテナンス、フォローアップなどが含まれます。良好な顧客サービスは、顧客ロイヤルティを高める重要な役割を果たします。

顧客設計にあたっては、要素に分解したうえで、全体で一貫した体験を提供することへのが重要です。

顧客体験設計のプロセス

顧客体験設計のプロセスは、調査、分析、設計、評価、そして改善の5つのフェーズで構成されています。

  1. 調査
    顧客のニーズや要望、または課題を理解するための情報収集段階です。これには、顧客からの問い合わせやフィードバックの確認、アンケート調査やSNSの声の収集などが含まれます。
  2. 分析
    このフェーズでは、収集したデータを分析し、顧客の行動パターン、嗜好、問題点を理解します。これにより、顧客が何を求めているのか、何が満足度を高めるのかを理解することが可能になります。
  3. 設計
    分析の結果を基に、顧客体験を向上させるための戦略やソリューションを設計します。このフェーズでは、新製品の開発や既存製品の改善だけでなく、販売プロセスの調整、利用フローの最適化、カスタマーサービスの品質向上など、企業全体の視点で顧客体験を改善できる要素を総合的に考慮することが求められます。これにより、全体として一貫した、より良い顧客体験を提供できる設計が可能になります。
  4. 評価
    設計した顧客体験が目的を達成できるか、または効果的であるかを評価します。ユーザーテストやフィードバックの収集を通じて、設計の有効性を検証します。
  5. 改善
    評価結果に基づき、顧客体験設計を改善します。これは継続的なプロセスで、実施後は定期的に調査を行い、顧客体験を最適化する取り組みは継続的に行う必要があります。

顧客体験設計に役立つもの

  • カスタマージャーニーマップの作成

    カスタマージャーニーマップは、顧客が製品やサービスと接触する全てのポイントを視覚化するツールです。

    このマップによって、顧客が経験する可能性のある問題点や改善の余地を特定することができます。顧客が製品を認識し、使用し、最終的には評価するまでの一連の経験を描くことは、それらの経験がどのように連携して全体の顧客体験を形成するかを理解するのに非常に有用です。

    カスタマージャーニーマップについては以下の記事で詳しく解説しています。

    カスタマージャーニーマップとは? 目的や作り方を徹底解説!

  • ペルソナの定義

    ペルソナは、理想的な顧客を表現するフィクショナルなキャラクターです。ペルソナは、チーム全体が顧客の視点を共有し、理解するのに役立ちます。それぞれのペルソナは特定のニーズ、動機、行動パターンを持ち、これらにより、より具体的かつ効果的な体験を設計することが可能になります。

  • フィードバックの活用

    顧客からのフィードバックは、顧客体験設計の改善に不可欠です。定期的にフィードバックを収集し、分析することで、顧客のニーズや要望、問題点をより深く理解することができます。また、フィードバックは新たなアイデアを生み出す源泉であり、顧客体験を次のレベルに引き上げるための改善点を見つけ出すことにつながります。

顧客体験設計の特徴

顧客体験のパーソナライズ

顧客体験のパーソナライズとは、顧客一人ひとりのニーズ、嗜好、行動パターンなどを理解し、その情報に基づいて個々の顧客に最適化された体験を提供することを指します。パーソナライズされた顧客体験の提供は、ブランドと顧客との感情的なつながりを強化し、ブランドロイヤルティを高める重要な要素となります。それぞれの顧客が、自分のニーズや好みが理解され尊重されていると感じることで、ブランドに対する満足度と信頼感が高まります。

以下に、パーソナライズされた顧客体験を生み出すための主な手法をいくつか紹介します。

  • データ分析
    顧客の行動データや購買履歴、利用傾向などの分析から、顧客の好みやニーズを理解することにより、個々の顧客に最適な製品やサービスを提案することが可能になります。
  • パーソナライズされたコンテンツ
    個々の顧客に合わせたメールマーケティングや、パーソナライズされたWebサイト体験といった、顧客の興味や好みに基づいたコンテンツを提供します。
  • カスタマイズされたサービス
    顧客のニーズに合わせてサービスをカスタマイズします。具体的には、専用の顧客サポート、個々の顧客に合わせた製品のカスタマイズなどが挙げられます。

これらの手法を用いることで、ブランドは個々の顧客に合わせた高度な体験を提供できます。

また、後述するオムニチャネルのアプローチを適用したパーソナライゼーションでは、あるチャネルから別のチャネルに顧客が移行しても、企業側は顧客情報や会話の履歴を保持し続けます。これにより、継続的な対話を通じて顧客との関係を深め、それぞれの顧客向けにパーソナライズされた体験を提供することが可能になります。

例えば、ある顧客が、最初にメールで企業に問い合わせを行い、よりスピーディーな解決を求めてチャットから再度問い合わせたとします。このとき、チャットのサポート担当者が「これが2回目の問い合わせだ」と知っていれば、顧客の最初のメールを事前に確認し、その顧客に最も適したサポートを提供できます。

オムニチャネルによる一貫した顧客体験

上記の例で示したように、オムニチャネルとは、さまざまなチャネルを連携させ、一貫した顧客体験を提供することです。顧客体験設計におけるオムニチャネルでは、顧客が好むチャネルで対応し、チャネルが移動してもスムーズで一貫性のある体験の提供を目指します。オムニチャネルでは、顧客との一つひとつのやりとりを継続的な全体のコミュニケーションのひとつとして織り込み、シームレスで一貫した顧客体験を実現します。

顧客体験におけるオムニチャネルのポイントは、顧客との接点がチャネルを越えて対応する担当者が変わっても、企業のど担当者にも顧客に関する情報が共有され、過去の対応や会話履歴をもとに、顧客一人一人に合わせた対応が提供されることであり、単に顧客が企業と接するのに複数の手段が使えるというだけではありません。

オムニチャネルは、顧客を中心とした戦略の重要な要素となります。顧客対応がオムニチャネル化できていれば、顧客は企業に連絡する際に好みのチャネルを選べ、企業側は顧客がチャネルを切り替えても、顧客情報や会話の履歴を保持したまま、顧客にストレスを与えることなくスムーズに対話を続けることができます。

また、顧客側に対しては、「わかってくれている」「個人的な好みを理解してもらえている」「担当者が変わっても対応がぶれない」といった感動を与えることができる可能性が高まります。

Zendeskのオムニチャネルに対応した問い合わせ管理画面

感情的なつながりがある

顧客体験設計における「感情的なつながり」は、製品やサービスが提供する機能や利便性を超えた、深いレベルでの顧客とブランドとの関係性を指します。感情は人間の意思決定に大きな影響を与えるため、顧客が製品やサービス、そしてブランド全体に対してポジティブな感情を抱くように導くことは、顧客ロイヤルティと長期的なビジネスの成功において重要です。

感情的なつながりを築くためには、以下の要素を考慮する必要があります。

  • ストーリーテリング
    ブランドの物語や価値観を共有することで、顧客と感情的なつながりを構築します。個人的な結びつきや共感を生み出し、ブランドに対する忠誠心を深める手段となります。
  • パーソナライゼーション
    顧客一人ひとりのニーズや好みに合わせた体験を提供し、顧客が自身を特別な存在と感じることで、感情的なつながりを強化するのに役立ちます。
  • サプライズと喜び
    予想以上のサービスや予期せぬ特典などを提供することで、顧客の喜びを引き出し、ポジティブな感情的反応を生み出します。
  • 共感とサポート
    顧客の問題や困難に理解と共感を示し、必要なサポートを提供することで、顧客にブランドに対する安心感や信頼感を抱かせることができます。

顧客体験の設計に役立つツール

  • 顧客関係管理(CRM)システム

    企業が顧客との関係を追跡し、管理するために有効なツールです。顧客に関する情報(購買履歴、連絡先情報、好みなど)を一元管理し、各チャネルで一貫性のある顧客対応を実現するだけでなく、顧客の履歴や過去の対応にアクセスし、より個別化されたサービスを提供できるようになります。

  • モバイルアプリ

    モバイルアプリにより、オムニチャネルでの顧客体験を補完できます。顧客はいつでもどこにいても製品やサービスへのアクセスを手軽に行うことができ、また個別化されたコンテンツや特典を受け取れるようになります。システムとの連携で、パーソナライズされた提案やオファーを通知するのに役立ちます。

  • カスタマーサービスソリューション

    カスタマーサービスソリューションは、企業が顧客との対話や関係を管理し、顧客に対して高品質かつ満足度の高いサポートを提供するための包括的なテクノロジーです。顧客からの問い合わせを一元管理し、効率的かつ迅速に対応するためには、カスタマーサービスソリューションが役立ちます。

    カスタマーサービスソリューションは顧客の問題をオムニチャネルのアプローチで解決するだけでなく、顧客の声や問題の発生源、パターンを分析し、体験の改善に役立てることも可能です。

  • 人工知能(AI)とボット


    人工知能(AI)とボットは、オムニチャネルでの自動化とパーソナライズされた対応を実現するためのツールです。AIは、顧客のデータを分析し、予測分析を行って個別化された提案やサポートを提供します。ボットは、Webサイト、アプリ、SNSなどのチャネルで顧客の質問に応答し、問題を解決するのに役立ちます。

    これらのツールにより、24時間365日、顧客のニーズに迅速に対応することが可能となるため、パーソナライゼーションやオムニチャネルを使った、より良い顧客体験設計を支援します。

期待を超える顧客満足度へ導く顧客体験設計

優れた体験設計ができれば、顧客はストレスを感じることなく、企業の製品やサービスを利用することができ、ときには顧客に自分が思う以上の素晴らしい体験や感動を与えることもできます。その経験は、企業やブランドとの結びつきを強め、リピート率やLTVの向上へとつながります。

大切なのは、常に顧客中心であることです。正しく設計するためには、顧客の真意や具体的なニーズを的確につかまなければなりません。あらゆる顧客接点をムダなく活用し、情報をまとめ上げて有効性の高い顧客体験設計に仕上げていきましょう。

Zendeskは顧客体験設計での考慮が必要となる、メール、チャット、SNS、電話など、さまざまなチャネルからの問い合わせの単一プラットフォーム上での管理、対応を可能とします。その時々のチャネルからの問い合わせに対し、継続性のあるサポートができるため、一貫した顧客体験を提供することが可能です。こうした手厚いカスタマーサービスを顧客体験設計にあらかじめ組み込むことができれば、顧客対応における優位性獲得に向けた事業戦略に大きく貢献します。

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