最近、企業分析で「LTV(顧客生涯価値)」という指標が使われるようになりました。LTVは、企業の長期的かつ継続的な利益を測る指標です。ここでは、LTVの意味と算出方法、ならびにLTVを向上させるマーケティングについて紹介します。
顧客生涯価値・LTVとは?
近年、マーケティングを行う際に、「LTV」という言葉を耳にする機会が増えました。LTV(Life Time Value)は、直訳すると「顧客生涯価値」を意味します。
1人の顧客がある企業と取引を始めてから、その企業と取引しなくなるまでの期間を、「顧客ライフサイクル」と言います。LTVは、ある顧客が顧客ライフサイクルの間に、「その企業にどれだけの利益をもたらしたか」を累計したものです。顧客を「発注側の企業」、企業を「ブランド」にも置き換えられます。
LTVは、顧客単位・顧客重視のマーケティングが成熟するに従って、注目されるようになった概念です。顧客との関係を良好にして、企業の利益につなげる、重要な指標とも言えます。
LTV(ライフタイムバリュー)が高い企業の特徴
LTVが高いことは、顧客が長期的に、その企業の製品を選択し続けていることです。つまり、継続して製品を利用してくれるロイヤルティの高い顧客がいて、その顧客と良好な関係を維持していることを表します。ロイヤルティの高い顧客は、購入金額も大きくなるため、LTVが高くなります。
なお、LTVは長期的かつ継続的な消費のある業界で主に活用されています。不動産のように、高額で購入回数の少ない商品・業界では、活用している企業では、必ずしも重要な指標となるわけではありません。
LTVが重視される理由
LTVが高い企業は、商品や企業を評価してくれる既存顧客を、しっかり確保しているということ。新しい顧客にブランドの認知・商品の購入を目指すには、多くのコストや手間、時間を要します。一方、既存顧客を維持するコストは、1人の新規顧客を獲得するコストの5分の1程度で済みます。これまでの購入履歴をもとに、好みや購買行動を把握しやすい点も、既存顧客ならではの特長です。
また、既存顧客の方が1回の購入金額が大きく、より大きな利益につながる傾向があるため、既存顧客の維持は経営上の大きな課題です。既存顧客との関係をより良好にし、拡大していくには、LTVの分析が欠かせません。
LTVが注目される背景
LTVが多くの企業から、注目される状況に至った背景には、複数の要因があります。
現代の情報化社会において、消費者は膨大な情報へ簡単にアクセスし、多様な選択肢の中から、自分が気に入った商品を選んで買えるようになりました。これによって、現代の企業は従来のマスマーケティングから、個別最適化された「One to Oneマーケティング」への移行を迫られています。
しかし、One to Oneマーケティングを実施するには、「どの顧客がどのような商品を好むのか」という情報が不可欠です。その場合は当然、自社との関係が構築されておらず、データも把握できていない新規顧客の獲得に注力するよりも、既存顧客との関係維持を重視した方が費用対効果は高くなります。
特に、現在は「CRM(顧客関係システム)」のように、既存顧客のデータを効率的に収集・管理できるシステムが普及し、顧客分析が容易になってきているのでしょう。そのため、既存顧客のロイヤルティを測るLTVの重要性が高まっています。
また、「サブスクリプションサービス」の普及も、LTVへの注目を後押ししている背景のひとつとして挙げられます。サブスクリプションサービスとは、商品・サービスの使用料を、月額や年額などの期間制で提供するビジネス形態です。
従来の買い切り型のビジネスとは異なり、顧客がどれだけサービスを長く継続してくれるかが売上に直結します。なぜなら、サービスが気に入らなければ、顧客はすぐに契約を打ち切ってしまうからです。それゆえ、サブスクリプション型のビジネスを展開する企業にとって、LTVは顧客満足度を測る重要な指標としても注目されています。
LTV(ライフタイムバリュー)の計算方法
LTVを求める計算式は、代表的なものだけでも、以下のように複数あります。
LTV = 利益×取引期間(ライフタイム)×割引率(現在価値係数)
LTV = 顧客の年間取引額 × 収益率 × 顧客の継続年数
LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入回数
LTV = (売上高 - 売上原価) ÷ 購入者数
LTV = 平均購買単価 × 購買頻度 × 継続購買期間
LTV = (平均購買単価 × 購買頻度 × 継続購買期間) - (新規獲得費用 + 顧客維持費用)
計算式がひとつではないことが、LTVの計算が難しい原因とも言えるでしょう。LTVの定義から考えると、顧客1人ずつにおけるLTVを算出するのが基本ですが、それぞれの顧客の購買金額や費用を個別に計算していくことは、現実的ではありません。
そこで、顧客全体の数値から「顧客1人当たりの平均値」を求めたものを、LTVとして扱います。ブランド価値の低下や時間による価値の低下、顧客獲得費用を計算に入れる場合もあります。
LTVが分かると、新規顧客獲得のために許容できるコストの上限も分かる
LTVは、「新規顧客1人当たりの獲得コスト(CPA)」にも関連しています。CPAの上限値は「目標CPA」と呼び、以下の数式で算出できます。
上限CPA(目標CPA) = LTV × 粗利率
LTVを高めるポイント
LTVを高める方法としては、以下の5つがポイントとして挙げられます。
客単価を上げる
まとめ売りや大容量サイズの追加、高品質商品の投入、ギフトやオプションなど、価値を追加する方向で客単価のアップを狙います。従来の商品を値上げするだけでは、既存顧客が離れていってしまう危険性が高くなります。
商品をアップデートし、それぞれの顧客の好みに合う商品を提案していくことで、顧客の購買意欲を高めた方が効果的です。
購入頻度を上げる
購入頻度を上げるには、購買後のフォローを行う必要があります。顧客とのコンタクトが増えると、顧客のロイヤルティが向上するからです。SNSで情報を発信しながら「ゆるいつながり」を継続し、適切なタイミングで商品の補充や買い替えなどのレコメンドを行います。継続的にゆるやかなコンタクトを保ち続けることで、購買行動につなげていく戦略です。
継続利用を促す
客単価と購入頻度が上がると、自然と継続利用へとつながっていきます。ここで顧客の離脱を防ぐために効果的なのが、「お得意様限定」の商品やセールを提供してロイヤルティにアピールしていくことです。
原価を抑える
利益を高めるには、原価を抑えることも基本的な戦略です。例えば、これまで1,000円で販売していた商品を、200円のコストをかけて製造していたとして、この原価を100円に落とせば、純利益は100円アップします。商品・サービスを提供するためのコストを抑えれば、それだけ購買単価に対する利益率が高くなります。
原価を下げることによって、元の平均購買単価を変えずに、商品を値下げして、顧客の増加を狙えるでしょう。
顧客満足度を高める
LTVを高めるには、顧客満足度の向上も欠かせません。いくら企業がサービスの継続利用や、セット商品・高額商品の購入などを促したところで、顧客が既存の商品・サービスに満足していなければ、効果は期待できません。
顧客満足度の向上には、商品・サービス自体の品質向上だけではなく、あらゆる顧客接点における、顧客体験の向上が重要です。商品やサービス、あるいは自社そのものに愛着を持ってもらうことで、その顧客は自然とリピート客になってくれるでしょう。あるいは、SNSや口コミサイト、周囲の知人との会話の中で、自発的に自社の商品・サービスの宣伝をしてくれるかもしれません。
これらは、いずれも売上アップに貢献してくれる施策です。インターネットが普及した現在では、購買後のフォローも低コストかつ簡単に行えます。インターネット上の口コミも、商品やブランドのイメージアップに大きく貢献してくれる可能性が高いです。インターネットを上手に活用することが、効率よくLTVを高める秘策であることは、言うまでもありません。
LTVを高めるために、以下の記事も参考にしてください。
LTVを高めるときの注意点
LTVを高めるには、以下の点に注意しながら取り組むことが重要です。
数字を盲信しない
LTVは、さまざまな要因で変化するため、表面的な数字を見ただけで、物事を判断するのは禁物です。例えば、LTVの高いサブスクリプションサービスの継続利用者の中には、サービスに満足しているからではなく、単に退会・解約の手続きが面倒であったり、わかりにくかったりすることを理由に、利用を続けている人も存在します。実際、この解約トラブルが、サブスクリプションサービス関連の消費者トラブルの代表例のひとつです。
しかし、LTVの数字のみでは、こうした背景までは見えてきません。LTVは、確かに重要な指標ですが、自社のビジネスを正確に評価するには、多角的な観点が重要です。持続的な自社の成長には、表面的な数字に捉われることなく、LTVは顧客満足度が高まるにつれて、一緒に上がっていくものであると、認識を持つことが大切でしょう。
既存顧客離れに気を付ける
LTVを高める施策はさまざまですが、実施した施策が望み通りの効果を発揮するとは限りません。また、既存顧客離れを引き起こしてしまうおそれもあります。例えば、LTVまたは平均購買単価を上げるには、商品の値上げが最も単純な方法ですが、顧客にとって納得のいかない値上げは、顧客離れの原因のひとつです。
あるいは、コストを下げた結果、品質も下がってしまい、既存顧客を失望させてしまうことも考えられます。したがって、LTVを高める際には、既存顧客の動向を監視し、顧客離れが発生していないか、発生しているとしたら原因は何か、続けざまに分析することが欠かせません。
継続する
LTVの最大化のためには、長期的なスパンにおいて、取り組みを継続することが重要です。前述の通り、LTVの向上は簡単なことではなく、かえって裏目に出てしまうこともあります。したがって、一度の施策実行で効果が出ることを期待しすぎず、長期的に試行覚悟を繰り返していく覚悟をした方がよいでしょう。顧客からの信頼は、焦って得られるものではありません。根気強く長期的な目線で、顧客との関係を構築していくことが一番の課題です。
まとめ:Webマーケティングを活用してLTVを高めよう
LTVの向上は、長期的な安定経営に欠かせない要素です。インターネットを使ったマーケティングは、全体ではなく個人を対象にでき、LTVの向上に有効な手法です。
顧客管理システムとマーケティングを上手に組み合わせて、LTVの向上を図り、健全な企業経営に生かしましょう。