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小売業界での最も熱いCXトレンドは「トレンドを追わない」こと

この記事では、全米小売業協会主催のRetail's Big Show 2021の参加レポートをお届けします。業界全体が激変する中、欠かせなくなっているのがカスタマーエクスペリエンスへの投資です。

更新日: 2024年2月22日

2020年、全米小売業協会が主催するRetail’s Big Showがニューヨークのジャヴィッツセンターで開催され、例年どおり数万人にのぼる小売業者のプロフェッショナルでにぎわいました。わずか1年後の2021年、同イベントは完全なオンライン形式で開催され、春にはジャヴィッツセンターが、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種会場として使用されました。そして、今では比較的高齢の世代でさえ、「Zoom疲れ」が何たるかを知るようになりました。

この1年で起こった劇的な変化により、何事も永遠には続かないということを私たちは改めて痛感しました。長年正しいとされてきた小売業に関するノウハウについても例外ではありません。小売業で成功を収めるには、他社との差別化要因として、またビジネスの優先事項として、カスタマーエクスペリエンス(CX)に十分な注意を向ける必要があります。

カスタマーエクスペリエンスは、これまでも過去数年にわたり、Retail’s Big Showの数多くのセッションで注目のテーマとして取り上げられてきましたが、今年のイベントでも、「大局的な視点」や「ニューノーマル」といった今の時代を映し出す最重要キーワードと並んで盛んに言及されました。

[関連記事:5 trends from retail’s 2020 Big Show(Retail’s big show 2020から見えてきた5つのトレンド)]

Zendeskは、小売業界におけるCXおよびその関連分野について、今後もさらなる発展があると考えています。とりわけ、現在の小売業界のトレンドが一過性のものではなく、ニューノーマル時代やさらにその先の時代でも、企業の成長に必要な基盤として根を張ったときには大きな伸びしろが期待できます。

1. CX改善に向けて顧客の声に耳を傾ける

Birchboxでカスタマーオペレーション&コミュニケーション担当シニアマネージャーを務めるLeanna Nazzisi氏は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック以降のCXの変化について語りました。

2010年にニューヨークで創業したBirchboxは、化粧品のサブスクリプションサービスを展開しており、購入前に商品を試せるのが特長です。毎月100万人の顧客に、それぞれの好みに応じて化粧品サンプルの詰め合わせを届けています。

Nazzisi氏は、24人のサポート担当者が在籍するカスタマーサービスチームの責任者で、Zendeskを使用してカスタマーエクスペリエンスを管理しています。同氏は、「The future of retail is about always-on, everywhere support: Fireside chat with Zendesk and Birchbox(場所と時間を問わないサポートが小売業の未来を創る~ZendeskとBirchboxの座談会)」というセッションで、温かみの感じられるパーソナライズされたカスタマーサービスを提供する方法について話しました。そのカギとなったのは電話でした。

Nazzisi氏はこう話します。「今年になってから、電話サポートの時間がずいぶん長くなったことに気づきました。だれもが人との交流を求めているということだと思います」
Birchboxのカスタマーサービスチームが顧客データを分析したところ、サポート担当者と直接話したいと思っている顧客がきわめて多いことがわかりました。それを踏まえ、サポート担当者の勤務スケジュールを調整して、顧客が満足するまでじっくりと話ができるようにしました。

「単に問題を解決し、チケットを処理して、次のチケットの対応に移る場合と比べて、はるかに強固な関係をお客様と築けるようになりました。つまり、長期的な関係を丁寧に作り上げられる環境になったということです」(Nazzisi氏)

Birchboxのカスタマーサービスチームが顧客データを分析したところ、サポート担当者と直接話したいと思っている顧客がきわめて多いことがわかりました。

テクノロジーの進化によって、企業はCXデータを分析し、時には顧客から求められる前に顧客1人ひとりに合わせたサポートを提供できるようになりました。別の座談会では、ペット関連商品の大手オンライン小売業者ChewyのCEO、Sumit Singh氏が登場し、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを乗り切るための自社での取り組みについて話しました。

Chewyがカスタマーサービスの改善に向けて実施した施策の1つが、顧客の声に耳を傾け、それを基にイノベーションを起こすことです。最近の成功事例として挙げられるのが、獣医に相談できるオンラインプラットフォームの構築です。

Chewyは、パンデミックの影響で顧客の在宅時間がかつてないほど増加したことで、獣医に対するニーズが高まっていることに気づきました。さらに、診療時間の短縮や外出規制令によって、ペットを獣医に診てもらうのが難しくなっていることもわかりました。こうした現状を前にひらめいたのが、前述のアイデアです。

顧客はChewyのアカウントにログインし、ペットの体調について詳細を入力して送信するだけで、チャット上で獣医の診断を受けることができるようになり、Chewy、顧客、獣医の三者にとって便利なシステムが構築されました。

Singh氏は次のように話しています。「大切なのはより深く追求することです。『顧客を理解せよ』とは、よく耳にする言い回しで、だれもが口にすることであり、何かと使いがちな言葉です。ただし、顧客のニーズを正しく理解、予想できている企業や経営陣はほとんど存在しません。時に企業は、顧客が自覚していないニーズをも予測し、それに沿って製品を開発できなければなりません」

[関連記事:Fast growth, fast resolution times: How Showpo is scaling support with Zendesk(事業成長も応答時間もスピーディに~Zendeskを活用してサポート業務を拡張したShowpoの事例)

2. 多くの消費者が新しいブランドを積極的に利用

パンデミックによってオンラインショッピングが急速に拡大する中、これを期に新しいブランドを試そうとする消費者が増えています。特に、優れたCXを提供してくれるブランドに対しては、そうした意欲が高いようです。

「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート2021」によると、顧客の3分の1近くがパンデミック中に新しい企業との取引を始めたと答え、その大部分が今後もその企業との取引を続けたいと回答しています。

さらに、消費者を理解するための指標として、ロイヤルティは依然として重要な要素ですが、Gartnerによる最近の調査で、最優先事項ではなくなったことが明らかになっています。消費者の価値基準のランキングで、「平等性」が初めて「ロイヤルティ」から首位の座を奪ったのです。

つまり、ブランド各社は、変わりゆく顧客のニーズに合わせられるようにこれまで以上に努力しなければなりません。既に知名度のあるブランドにとって、常に顧客から選ばれ続けるために有効な戦略の1つが顧客ファースト志向です。

顧客ファーストの企業は、製品を次々と作ってただ世に送り出すのではなく、顧客の要望に沿った製品やサービスを開発しています。つまり、本当に重要なのは、顧客の望みを理解してそれに応える方法を見つけることです。

米国の住宅リフォーム会社Lowe’sのCEOを務めるMarvin Ellison氏は、同社の今後の計画について次のように語りました。
「将来の見通しを立てる際、当社は一歩引いた視点に立って『お客様が何を最も望んでいるのか』というシンプルな問いについて考えます。当社が何より重視しているのは、他社より優位に立とうとしたり、業界全体での動きに追随したり、業界の動向を予測したりすることではなく、お客様を中心に据えることです」

[関連記事:Reimagining the future of retail(小売業界の未来を改めて考える)

3. サービスこそが新たなエクスペリエンス

こう話すのは、Six Pixels Group(商取引やイノベーションに関しアドバイスや投資を行うベンチャーキャピタル)の創設者であるMitch Joel氏です。同氏は、「The Great Compression(大圧縮時代を迎えて)」というセッションで、マスクの着用やソーシャルディスタンスの確保など、多くの小売業者が今も対応を余儀なくされている大きな環境の変化について言及しました。

現在、オンラインでも実店舗でも、買い物はより取引的な側面が強くなり、単純で画一化された形式となってきています。この1年は安全性が何より優先されてきましたが、Joel氏は、消費者は製品だけでなくエクスペリエンスも購入しているのだ、と改めて強調します。

カスタマーエクスペリエンスは今も変わらず重要であり、単にこれまでとは違った方法で提供されなくてはならないというだけです。

たとえば、提供する製品に新しいサービスを追加したり、既存のサービスにさらに別のサービスを追加したりするという方法があります。米国の小売業者は、カーブサイドピックアップ(オンラインでの注文後、顧客が店舗の駐車場まで商品を受け取りに行くサービス)という方法で見事に昨年の難局を乗り切りましたが、さらに一歩進んだイノベーションが求められます。

たとえば、大手スーパーのWalmartでは、ペット保険の提供を開始しました。また、アパレルメーカーのLevi’sは、比較的状態の良いジーンズの古着販売に乗り出しました。このサービスは、地球に優しく長持ちする製品を生み出すというブランドメッセージにも呼応しています。

さらにJoel氏は、個人経営の寿司店に対し、テイクアウトの購入客に向けてサブスクリプションの動画配信サービスを併せて提供するように提案しています。これは、購入客がZoomにアクセスすると、今週のネタについて食事をしながら店のスタッフの説明を聞けるというものです。

こうしたサービスは、通常の生活に戻れるまでビジネスを維持することだけを目的とした一時的な取り組みであってはなりません。リモートワークの例を見ても、パンデミックによって取り入れられた習慣の一部は既に定着しています。

こうしたサービスは、通常の生活に戻れるまでビジネスを維持することだけを目的とした一時的な取り組みであってはならない、とJoel氏は言います。リモートワークの例を見ても、パンデミックによって取り入れられた習慣の一部は既に定着しています。

前述のようなエクスペリエンスを期待している顧客との関係を維持するには、こうしたサービスの提供を継続するだけでなく、さらに新しいサービスを提供できるように創造力を発揮することが大切だ、とJoel氏は述べています。

[関連記事:Meeting the advanced challenges of modern retail CX(今日の小売業界のCXに関する高度な課題に対処するには)

4. 優れた従業員エクスペリエンスは優れたカスタマーエクスペリエンスにつながる

小売業界において従業員エクスペリエンスの向上がいかに重要であるかは、過去のRetail’s Big Showでも既に議論されています。満足度の高い従業員ほど、顧客に優れたエクスペリエンスを提供できるからです。そのため、顧客と直に接する担当者のために適切なテクノロジーを導入し、最高のサービスを提供するための環境を整える必要があります。

たとえば、キーボードを数回叩くだけで、相手が新規の顧客か長年の得意客かがわかるようにできます。また、従業員に対し、ブランドプロミスやビジネスバリューといった自社の根本的な価値観を周知して、eコマースサイトでも、マーケティングメールでも、各担当者が一定のエクスペリエンスを提供できるようにする必要があります。

企業のリーダーは、大量に問い合わせが寄せられていたり、きわめて緊張が高まっていたりしている中でも、そうした状況に対処できるように従業員を訓練しておくだけでなく、高いリスクにさらされる現場の担当者に対して、安全かつ安定したエクスペリエンスを提供する必要があります。

世界的なパンデミックの中、優れた従業員エクスペリエンスを提供するには、通常とは少し違った対応が求められます。企業のリーダーは、大量に問い合わせが寄せられていたり、きわめて緊張が高まっていたりしている中でも、そうした状況に対処できるように従業員を訓練しておくだけでなく、高いリスクにさらされる現場の担当者に対して、安全かつ安定したエクスペリエンスを提供する必要があります。

Ellison氏は、Lowe’sでは季節労働者を含め、従業員が無料で遠隔医療サービスを受けられるようにしたほか、アルバイトやパートの従業員に対しても多額のボーナスを支給したと言います。

前述のセッションで、Ellison氏は次のように話しています。
「私たちはこうした対応ができたことを誇らしく思っています。従業員、消費者、地域社会がさまざまなことを求められる中、大企業は一歩踏み込んだ支援を行える存在だと考えているからです。もちろんすべての問題を解決できたわけではありませんが、大きな一歩を踏み出して、最も支援の必要な人たちにとってこの一年が良いものとなるように力添えができたことに、とても満足しています」

パンデミックが収束しても、企業のリーダーの方々は、従業員に顔を見せることを常に心がけていただきたいと思います。

[関連記事:Stanley Black and Decker + Zendesk: Unified Support(Stanley Black and Decker~Zendeskで統合型のサポート環境を実現)

5. 顧客に見える部分はシンプルに

これまでのRetail’s Big Showで言及された比喩の中で、特に見事だったものの1つが「
マレットヘア型CX
」です。これは、Levi’sの社長を務めたJames “JC” Curleigh氏の言葉で、マレットヘア(1970年代から80年代にかけて欧米で流行した、襟足を長く残したショートヘア)をCXの在り方になぞらえたものです。顧客に提供するエクスペリエンスはシンプルでありながら、高度で豊富な背景情報やデータによって支えられたサービスのことを意味します。

少々笑ってしまいそうな表現ですが、今でも完璧に通用する優れた比喩です。変化を強いられたこの1年、カスタマーエクスペリエンスはかつてないほどシンプルである必要がありました。たとえばカーブサイドピックアップのサービスは、eコマースサイトでの閲覧から、購入、注文、店舗の駐車場での受け取りまでのステップで、すべて完結する必要があります。企業はこうしたエクスペリエンスを実現するためのインフラをバックエンドで適切に整備する必要がありました。

カーブサイドピックアップを利用した顧客の元に届く確認メールには、商品の受け取り場所に着いた際にクリックする「到着」ボタンが配置されています。シンプルなボタンですが、その裏ではおそらく想像以上に複雑なテクノロジーが使われているはずです。
こうしたテクノロジーは、人々がマスクや手指消毒剤といった今や生活必需品となったアイテムを入手するうえでも、非常に重要なものになりました。

変化を強いられたこの1年、カスタマーエクスペリエンスはかつてないほどシンプルである必要がありました。たとえばカーブサイドピックアップのサービスは、eコマースサイトでの閲覧から、購入、注文、店舗の駐車場での受け取りまでのステップで、すべて完結する必要があります。

Ellison氏いわく、つい2年前まで、Lowe’sで使用していたバックエンドシステムは機能性に欠けていました。スケジューリングプラットフォームは機動的でなく、店舗間で異なる顧客の購買・需要のパターンに応じることができませんでした。また、eコマースプラットフォームは10年もので、電子領収書の発行に対応していませんでした。そのため、Ellison氏にとっては、こうした環境の刷新が最優先事項となりました。

「まずは自社の小売業務の基幹要素に注力し、運営の基盤となるシステムを整備することが急務であると感じました。家を建てる場合と同じで、土台さえ完成すれば構造の組み立ては比較的スムーズだからです。ただし、土台がしっかりしていなければ、非常に不安定な建築物しか作れません。小売業での運営を成功させるうえでも、そうした考え方に基づく必要があると考えました」(Ellison氏)

周囲で起こっている変化を無視してしまうと、Lowe’sのような住宅建築にかかわる企業だけでなく、小売業者の多くが足場の不安定さに気づかされるかもしれません。小売業者がCXに関して何より重視すべきなのは、方針の転換やトレンドの追跡ではなく、安定性を確保することです。

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