総務、経理、人事、労務、法務、社内ヘルプデスクといった、いわゆるバックオフィス部門には、社内の他部門から業務に関する同じような問い合わせが多く寄せられます。一つひとつに丁寧に回答したいところですが、そうすると時間を取られて本来の業務がおろそかになります。
バックオフィス部門の生産性を向上させるには、社内FAQサイトを構築して社内問い合わせ業務の負荷を軽減するのが効果的です。本記事では、社内FAQシステム構築のメリット、必要な機能、ツールの選び方、および運用のポイントについて解説します。
バックオフィス部門が抱える社内問い合わせ業務対応の課題
社内からの問い合わせに電話、メールで対応すると1対1の対応になって、以下のような非効率な状況に陥ります。
- 同じ内容の問い合わせであっても、同じ回答をその都度しなければならない。
- 問い合わせ1件ごとに1人の担当者が個別に回答しなければならない。
- 電話対応では、離席やほかの電話対応により行き違いになって時間的なロスが生じる。また、急ぎの問い合わせの場合、すぐに回答できないと相手の業務に支障が出る。
- メール対応では、文面の理解が不十分だと問い合わせや回答内容に行き違いが生じ、やりとりが複数回になって時間と手間がかかる。
- 担当者が個別に回答すると、回答の内容や質にバラつきが生じる。
- 担当者が回答できない問い合わせはエスカレーションが必要になり、それを受ける社員の業務を阻害するとともに、ナレッジが属人化して共有されない。
以上の状況を放置すると、問い合わせが多い部門や本来業務の遂行で忙しい部門では担当者の負荷が重くなり、本来の業務の遂行に支障が生じます。一方で本来業務を優先すると、回答が遅れたり回答の精度が低下したりして、問い合わせした部門の業務に悪影響を与え、企業全体の生産性が低下します。社内問い合わせ対応業務を効率化して、生産性を向上させるには社内FAQシステムの導入が効果的です。
社内FAQがもたらすメリット

FAQは「Frequently Asked Questions」という言葉の略で、日本語では「よくある質問」と訳されます。多くの企業は顧客に対してFAQを公開しています。日々寄せられる「よくある質問」とそれに対する回答をデータベース化し、FAQとして社内向けに公開することで、問い合わせする側の部門の自己解決力を高められます。社内FAQの導入の主なベネフィットは以下です。問い合わせを受ける部門だけではなく問い合わせをする側の部門にもベネフィットが生まれます。
問い合わせを受ける側のメリット
-
社内問い合わせ対応時間が減り、本来の業務に集中できる
FAQで自己解決できるため、問い合わせ件数が減少して担当者の負荷が軽減され、本来業務に集中できます
-
重要度や難度の高い問い合わせに専念できる
簡単な内容の問い合わせはFAQで解決できるため、FAQでは解決できない難度の高い問い合わせに専念できます。
-
ナレッジの共有でエスカレーションの必要性が減少する
FAQの充実により、回答する担当者自身がFAQを参照することで今まで回答できなかった問い合わせにも回答でき、エスカレーションが減少して組織全体の業務効率が向上します。
-
回答の一貫性を保ち、対応の属人化を防げる
問い合わせ対応における課題の1つとして「属人化」が挙げられます。属人化とは対応する担当者の判断や経験により回答の内容が異なる状態や、特定の担当者にしか問い合わせがあった問題に対応できないという問題です。
社内FAQを整備し、部署としての回答や対応方法をまとめ、かつ業務に関するナレッジを追加していけば、特定の従業員に依存せず、一貫した情報提供を行うことができます。社内での対応マニュアルとしても活用すれば、誰もが迅速かつ均一化された対応が行なえます。
-
同じ質問が繰り返されるストレスから解放される
同じ内容の簡単な問い合わせに何度も回答したり、問い合わせのたびに自分の業務を中断したりしなければならないストレスから解放されます。
問い合わせをする側のメリット
-
電話やメールの手間を省き、自分の知りたいタイミングで疑問を解決できる
いちいち電話やメールをしなくても、時間を選ばずにいつでもFAQを見ることで解決できます。やりとりをするストレスがなくなり、担当者の不在中でも回答が得られることで待つ時間を短縮でき、業務効率が向上します。
テレワークやフレックスタイムなどを導入している企業は、問い合わせしたいタイミングと回答してもらえる時間帯が異なることによって業務に支障が出る可能性を低減できます。
-
回答する担当者によって回答のばらつきが異なることがなくなる
属人化の防止は問い合わせをする側とされる側の双方にメリットがあります。問い合わせた際に担当者によって回答が変わると、「同じ問い合わせをした同僚と異なる回答をもらった」「前回は問題がなかった申請で今回は不備が指摘された」などの事態が起きてしまい、問い合わせた側は大きなストレスを感じます。社内FAQに回答が用意されていれば、常に統一された質の高い回答が得られることができ、スムーズに業務に集中することができます。
-
部門内の新入社員や転籍者に教える手間が省ける
新入社員や転籍者は疑問や知りたいことが生じたとき、バックオフィス部門に問い合わせする前にまず自部門内の社員から回答が得られないかを確認します。新入社員や転籍者が多い部門では、問い合わせを受ける部門と同じ状況になって業務の効率が低下しがちですが、FAQの利用を促すことで業務を効率化できます。また、教育する手間が省けると同時に教える内容の標準化もでき、指導者によって教える内容が異なることなく、均一で質の高い教育が可能です。
社内FAQツールに求められる機能
自己解決を促進し、問い合わせ業務を効率化するには社内FAQの活用が効果的ですが、FAQを立ち上げるために必要なツールには以下の機能が必要です。ツールは利用者と管理者の双方にとって、分かりやすく使いやすいことが重要です。
-
テンプレートが充実している
テンプレートが豊富であれば記事を書くだけでいいので、すぐにFAQサイトを立ち上げられます。
Zendeskで作成した社内向けFAQの例
-
使いやすいインターフェースが備わっている
ユーザーフレンドリーで、構築や運用に手間がかからない使いやすいインターフェースであれば、導入・運用がスムーズに行えます。
-
サイト内をカテゴリー(セクション)で分けられる
例えば経理、情報システムなどの部門や、事業分野別、製品別など、問い合わせに応じてカテゴリー(セクション)分けができると、検索しやすくなって使いやすくなります。
-
記事ごとにフィードバックを受けられる
作って終わりにせず、ユーザーに役立つより良いFAQにするには、記事ごとにフィードバックを受けることができ、それをもとに修正・更新ができることが重要です。
-
記事の承認者を設定できる
記事の品質を確保するには、できた記事をチェックして承認してもらうプロセスが必要です。これにより記事の信頼性を高められます。
-
問い合わせの分析ができる
よく検索されるキーワード、よく見られている記事、満足度が高い・低い記事などを分析することで、より使いやすくて活用されるFAQにするためのPDCAを回せます。
社内FAQツール選定と運用ポイント
業務効率化を実現するためのツール選定と運用のポイントを解説します。
社内FAQツールの選定ポイント
-
自社の目的やニーズに合った機能を備えていること
コスト、規模、拡張性、必要な機能など、目的やニーズを満たせるかを確認します。問い合わせ管理機能やチャットボットとの連携機能があると、よりいっそう業務効率化を実現できます。例えば、多様な問い合わせチャネルに対応した一元管理や、FAQで解決できなかった問い合わせに対するチャットボットの自動回答を実現できます。
-
アクセスできるデバイスを選ばないこと
パソコン以外からもアクセスできると、出張中や離席中でも場所を気にせずに利用できます。
-
セキュリティ機能に優れていること
FAQには機密性の高い情報や社外秘の情報も含まれるため、セキュリティ機能が弱いと情報が漏えいするリスクがあります。また、社内の特定の部門、あるいは一定以上の職位者にしか公開しない情報も含まれるため、アクセス制限機能が必要です。
-
FAQを充実させられる分析機能に優れていること
FAQサイトは作って終わりではなく作ってからがスタートのため、より良いFAQにしていくためにPDCAサイクルを回せる分析機能が必要です。
-
操作性に優れ、誰でも使えること
FAQは、ITリテラシーが高くなくても容易に操作できなければなりません。ツールの無料お試しがあれば、導入前に操作性を確認できます。
Zendeskの社内FAQの記事作成画面
バックオフィスの業務効率化を支援するソフトウェアZendeskは実際に製品を試せる無料トライアルをご用意しております。ぜひお気軽にお試しください。
FAQサイトの運用ポイント
運用担当者を設置し、ルールを設定する
運用担当者を設置し、FAQの文体、表記方法、カテゴリー分けなどのルールを決めて標準化を図ることで、FAQ記事を見やすく作成しやすくでき、FAQの活用を促進できます。
定期的にアップデートする
変更される可能性のある制度や手続き上のルールなどは、常に最新の情報を提供しなければなりません。見直しによる定期的なアップデートが必要です。
更新を前提とした運用を行う
FAQは記事の量と品質に比例して活用価値が向上するため、定期的なアップデートとともに重要なことは、FAQを使いやすく改善していくことです。改善を重ねることで頻繁に利用されるようになり、問い合わせ件数が減少し、業務をより効率化できます。利用状況の分析、社員からの意見の収集、FAQで解決できなかった質問に対する記事の見直しや新規記事の作成・追加などで、FAQの価値を継続して高めていかねばなりません
社外FAQを構築し問い合わせ業務を効率化した企業の事例
Zendeskは世界10万社以上が利用するカスタマーサービスプラットフォームであり、社内FAQの構築ができる多彩な機能を有しています。Zendeskを利用して社内FAQを構築し、問い合わせ業務を効率化した事例をご紹介します。
株式会社佐賀銀行「FAQサイトをキーソリューションに行内業務の効率化と顧客接点の刷新を推進」
佐賀銀行では、問い合わせの多くはコールセンターや営業店に電話で寄せられていました。問い合わせには、ホームページで検索すれば自己解決できる質問も少なくありません。しかし、こうした質問であっても回答するには幅広い金融知識が必要で、問い合わせを専門部署へ回すエスカレーションが頻繁に発生していました。
これでは手間がかかるだけでなく解決時間も長引きます。なかには間違った回答をしたり、専門部署からも回答が得られずに問題解決が遅延したりするケースも生じていました。また、全体の65%程度を占める営業店への問い合わせは、口頭で対応していたために記録がされず、データとして活用されていないという課題も抱えていました。
そこで、Zendeskを導入し、ホームページ上に散在していた既存のFAQを集約。FAQで解決しない場合にはチャットで行員が対応する仕組みを確立します。その結果、コールセンターへの電話件数が去年比で毎月平均15%程度減少するという効果が出ています。
Classi株式会社「ヘルプページの再構築で自己解決を促進 顧客を理解し改善を回すきっかけに」
Classi株式会社は、高校を中心とした学校教育機関向け学習支援プラットフォームを提供する企業です。同社のサービスは利用者が先生・生徒・保護者の三者で、必要な機能も分かれているため、サポートが一様にできない特徴があります。さらに、契約主体は学校ですが、利用者数が多いのは先生より生徒や保護者です。そのため、操作に不慣れな生徒や保護者は必要な情報にたどり着けないことが多く、先生に問い合わせが集中し、負荷が高まることがあるという課題を抱えていました。また、ヘルプページも内製であったため、画像や動画の挿入、文字の装飾ができず、メンテナンスや分析にも手が回っていませんでした。
そこで、最も利用している生徒や保護者が自己解決できるようになることを重視して、ヘルプページを再構築するためにZendeskを導入しました。同時に、副次的効果として先生の負荷の軽減を図ります。導入の決め手は、カテゴリー別、セクション別に階層を細かく設定できる点でした。導入後、問い合わせの傾向に応じた記事の追加や、検索にヒットするようなキーワードの調整を実施。また、Webフォーム経由の問い合わせには、問題解決に役立つ記事へのリンクの紹介などで効率よくサポート業務が行えるようになりました。
社内FAQはバックオフィス部門の業務効率化の決め手
適切な社内FAQの活用は、問い合わせする側、それを受ける側双方に大きなメリットがあります。業務上の疑問をスピーディーに自己解決できれば、時間のロスがなくなり、業務効率が向上します。バックオフィス部門では本来の業務に集中する時間が得られるようになり、業務効率化と生産性の向上を実現できます。
社内FAQの整備は、社内全体の業務環境に好影響をもたらし、従業員満足度の向上にも寄与します。重要なのは、自社の課題を確実に改善する適切なFAQツールを選択して導入すること、およびその機能を十分に生かして運用していくことです。