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コールセンターの平均処理時間(AHT)とは?概要・計算式・短縮方法を徹底解説

平均処理時間(AHT)とは、顧客との通話の平均時間を示すカスタマーサービス指標です。コールセンターのKPIとしてよく使われます。

更新日: 2024年2月22日

時間は貴重な資産です。顧客の時間はもちろん、皆さん自身の時間も1秒たりとも無駄にはできません。そこで今回は平均処理時間(AHT/Average Handling Time)について取り上げ、カスタマーエクスペリエンスに与える影響や、落とし穴にはまらないためのヒントについて解説していきます。

平均処理時間(AHT)

平均処理時間(AHT)とは、コールセンターの主要業績評価指標(KPI)としてよく使用されている測定指標であり、顧客との通話1件あたりに費やした時間の平均値を指します。

AHTが重要な理由

AHTは、オペレーター個人とチーム全体の両面からカスタマーサービスの効率性を評価するために使用されます。カスタマーサービスの基準値や新しい目標を設定するうえで有効な指標です。

最新の「Zendeskカスタマーエクスペリエンストレンドレポート」では、顧客の66%が、今でも主に電話を使って企業のサポート窓口に連絡することがわかっており、AHTが追跡すべき重要なKPIであることは明らかです。

顧客の66%が、今でも電話を使って企業のサポート窓口に連絡している

AHTを測定する最大の目的は、顧客との通話時間を把握することですが、オムニチャネルのカスタマーサービス体制を整備している企業では、電話とそれ以外のチャネル(チャットなど)での対応時間を比較するためにも利用されています。

AHTを算出するには以下の情報が必要です。

  • 総通話時間
  • 総保留時間
  • 処理した通話件数

average handle time

AHTの適正値

その企業のカスタマーサービスに対するアプローチ、提供する製品やサービス、カスタマーサービスチームの体制によって、AHTの値は左右されます。AHTを参照すると、一般に以下のような目標の達成状況を評価できます。

  • 保留時間を最小限に短縮する
  • 通話時間を適正化する
  • 通話の処理件数を増やす
  • 顧客満足度を高める

こうした目標の達成状況は、コールセンターの業務効率を測る一つの物差しとなるでしょう。しかし、AHTが短いからと言って、然るべきサポートが提供されていると安易に考えてはいけません。

AHTの短縮を課したために、顧客への対応がおろそかになるようでは本末転倒です。AHTが長すぎるのは考えものですが、重要なのは、顧客が必要とするサポートや自社のコールセンターのキャパシティに応じて、適正な時間内に収めることです。

AHTの計算式

AHTは以下の式を用いて計算します。

(通話時間+保留時間+フォローアップ時間)÷通話件数=AHT(分または秒)

たとえば、通話件数が150件で、通話時間が3,000分、保留時間が700分、フォローアップ時間が500分だったとしたら、その合計時間(4,200分)を通話件数(150件)で割った値(28分)がAHTです。28分というのは、業界の標準をはるかに上回る値です。Call Centre Magazineによると、AHTの標準値は6分10秒です。

how to calculate average handle time

メッセージング、チャット、メールなど、他のチャネルの平均処理時間も、同様の計算式で算出できます。

AHTは多くのツールで計算可能です。ブラウザベースのコールセンター向けアーラン計算機なら、いくつかの変数を入力するだけですばやく計算できます。こうしたツールはちょっとした計算をしたいときに便利で、小規模なコールセンターが使うのにも適しています。

しかし、AHTを経時的に分析するツールを探している場合や、ビッグデータの長期的な収集が必要だと考えている場合は、サポートデータを抜き出してグラフやダッシュボードで簡単に視覚化できるソフトウェアを使用するのが得策でしょう。

こうしたダッシュボードは、データを社内全体で共有する必要がある場合に最適です。コールセンターと言っても、近ごろは最新のチャネルを導入しているところも多いはずです。各チャネルのAHTを算出したり、変数をつど調整したりといった面倒な作業は、分析ソフトウェアに任せてしまいましょう。

コールセンターのAHTを短縮するには

AHTが全体的に適正値よりも長いようなら、カスタマーサービスチームのマネージャーは以下の対策を講じてみてください。電話対応の質を落とさずにAHTの適正化を図れます。

AHTを短縮する方法

  1. オペレーターにトレーニングの受講を徹底させる
  2. ナレッジベースやヘルプ記事といったセルフサービス用のコンテンツを用意する
  3. オペレーターのパフォーマンスをチェックする
  4. 通話を録音して継続的なトレーニングに利用する
  5. 通話のルーティングと社内コミュニケーションを効率化する

1. オペレーターにトレーニングの受講を徹底させる

AHTの値を悪化させる主な要因としてまず考えられるのが、オペレーターへのトレーニング不足です。適切なトレーニングを受けていないと、対応にもたつきや無駄が多くなり、顧客やオペレーター自身の貴重な時間を浪費してしまいます。

業務に支障が出るほどの過剰な対応は控えつつも、各オペレーターが柔軟にサポートを提供できれば、コールセンター全体の効率化につながります。

カスタマーサービスのトレーニングを最適化して顧客満足度を最大化したいとお考えでしたら、トレーニング実施のヒントチームマネジメントの詳しいガイドをご覧ください。

2. ナレッジベースやヘルプ記事といったセルフサービス用のコンテンツを用意する

セルフサービス用のコンテンツは、顧客にとって便利なだけでなく、オペレーターの生産性向上にも一役買います。ナレッジベースを充実させれば、オペレーターからも重宝されるはずです。

また、ヘルプ記事は、問題発生時にすばやく対応策を確認できる点でも便利ですが、オペレーターのトレーニング教材としても有効で、よくある質問内容をあらかじめ把握できる、解決策を自力で探すときの顧客の視点を理解できるといったメリットがあります。

3. オペレーターのパフォーマンスをチェックする

AHTに関連する他の測定指標にも注意しておきましょう。コールセンターでは、主に次のような指標が重要になります。

  • 平均通話時間
  • 通話に応答できなかった回数
  • 通話の拒否回数
  • 通話の転送回数
  • 平均待機時間
  • 最長待機時間
  • 待機呼中に顧客が切断した回数
  • 待機呼が発生した回数
  • 平均応答時間
  • 平均保留時間

コールセンターの強みと弱み、それがカスタマーエクスペリエンスに及ぼす影響について十分に理解するには、こうした重要な指標からどんなことが読み取れるのかを把握する必要があります。AHTの適正化にもきっと役立つはずです。こちらのブログ記事で、コールセンターの変革に役立つ12個の測定指標を紹介していますので、ぜひご覧ください。

4. 通話を録音して継続的なトレーニングに利用する

サッカー選手が試合の映像を見て自分たちのプレーを振り返るように、コールセンターのオペレーターも継続的なトレーニングの一環として、顧客との通話を録音して内容を確認することをお勧めします。

通話を録音しておけば、保留時間が長引いてしまったときの顧客の反応、通話中のオペレーターの応対、全体的なカスタマーエクスペリエンスなど、一部始終を確認できるため、格好のトレーニング教材となります。

こうしてオペレーターとマネージャーが通話中の状況をきちんと把握することで、コールセンターのサービスを向上できると同時に、AHTを適正化するためのヒントも見えてくるでしょう。

5. 通話のルーティングと社内コミュニケーションを効率化する

ルーティングプロセスはAHTやカスタマーエクスペリエンスにも影響するため、明確に定義しておかなくてはなりません。転送先を誤って貴重な時間を無駄にしてしまわないよう、できるだけ適切なオペレーターに転送する必要があります。

高性能のIVRルーティングシステム(ツリー転送)を導入すれば、顧客が目的に合わせて通話の相手を選択し、最初から適切なオペレーターと話ができるようになります。

また、オペレーターどうしが密に連携し、共同で作業しやすい職場環境を作ることも大切です。とは言え、そのためにわざわざサードパーティ製アプリを導入する必要はありません。社内ですばやく効果的にコミュニケーションを図れるようなシステムを整備すれば、結果的に顧客満足度の向上にもつながります。

AHTとカスタマーエクスペリエンスを関連付けて考える

顧客がコールセンターに問い合わせをしてくるのは、たいてい何らかの不便を感じているときであるため、効率の良いやり取りが期待されます。AHTは、そのような不便さを解消するうえで重要な指標であり、インバウンド型のコールセンターに求められる効率性を測るための物差しでもあります。

かかってくる電話が多いためにAHTに悪影響が出ている場合は、セルフサービス用チャネルを追加して問い合わせを抑制することを検討してみましょう。チャットボットやバーチャルアシスタントは、PCやモバイルを使っている顧客に適したサポートチャネルであり、IVRシステムから誘導することで電話対応の削減が見込めます。

効率化できるところはたくさんありますが、こうしたツールは、AHTの短縮とカスタマーエクスペリエンスの改善を後押ししてくれます。

AHTの落とし穴:数字に振り回されてはいけない

AHTは、コールセンターで特によく使われている指標の一つですが、慎重に扱わないと、ずれた解釈をしてしまう可能性があります。誤った結論を導き出すことは、コールセンターのリーダーなら絶対に避けたいところです。スタッフの配置、トレーニング、昇給などについて十分な情報に基づいて決定を下せているのかどうかが疑わしくなってくるからです。

Zendeskのコミュニティマーケティングスペシャリストであり、コールセンターを熟知しているDave Dysonは、「平均値ではなく中央値を使うことを強くお勧めします」と提言しています。

先に示したように、処理時間の平均値(AHT)は以下の計算式で求められます。

(通話時間+保留時間+フォローアップ時間)÷通話件数=AHT(分または秒)

中央値と平均値の違いは何でしょうか? 平均値は、数学では「平均」と呼ばれることもありますが、コールセンターの処理時間の平均値(AHT)は前述の計算式で求めます。それぞれの合計を足して、値の数で割った数字が平均に対し、データを小さい順または大きい順に並べ、その中間に位置する数字が中央値です。

処理時間の中央値は、以下のようにして求められます。

  1. データポイント(分数または秒数で示された各対応での処理時間)を最小値から最大値まで並べます(データの数が奇数だと中央値が割り出しやすいため、計算が簡単です)。
  2. 並んだ値の中で、ちょうど真ん中に位置するものが中央値です。

たとえば、処理時間のデータポイントが、1分、1分45秒、4分、5分5秒、29分の5つだったとします。この場合、4分が中央値です。

average handle time sample handle time data

平均値は外れ値に引きずられやすく、極端に長い処理時間があると、偏った値になることがありますが、中央値の場合はそのようなことがない、とDysonは言います。上記の例もそうしたケースにあたり、29分が外れ値です。

処理時間を通して、企業は顧客対応にかかっている標準的な時間を理解しようとします。しかし、次の2つの点を考えると、処理時間は絶対的な物差しとは言えません。

  • 問い合わせによっては、長時間の対応が必要になることもあります。そもそも顧客がオペレーターと直接話したいと思うのは、問題が複雑であるときがほとんどです。
  • 処理時間は手動で計測します。オペレーターがタイマーを止めるタイミング次第で、処理時間は変わります。

Dysonは次のように説明しています。「昼休憩や週末の間にオペレーターがチケットをオープンにしたままにしていると、処理時間は蓄積されていきます。また、一度タイマーがオンになると、リセットすることはできません。処理時間のデータには、ヒューマンエラーがある程度含まれているものです。中央値と平均値を使い分ければ、そうした点にも対処できます」

たとえば、データ上で処理時間が48時間にのぼっていたとします。平均値はすべてのデータをならしたものですが、中央値を出せば、極端な外れ値があることに気づけます。

平均値は全体像を掴む必要がある場面などで役に立つ、とDysonは言います。たとえば、顧客の支出額の分析で用いる値として適切かつ理解しやすいのは平均値です。顧客の平均支出額に顧客の人数をかければ、総支出額を推定できます。

処理時間のデータの活用方法としてDysonが勧めているのが、データポイントを特定の問題にマッピングすることです。製品やサービスのサポートで最も時間がかかっている面を把握することができます。AHTを使って求められる、特定の製品やサービスに関するサポート時間の合計は、カスタマーサービスチームにとって有益な情報となります。

AHTに使うのは平均値?VS中央値?

事業分野ごとにオペレーターの作業時間がわかれば、その合計時間を他の事業分野や製品と比較できます。これに、オペレーターにかかる平均コスト(給与、福利厚生、設備など)を合わせると、その分野での全体のサポートコストがどのくらいかがわかり、より説得力のあるデータとなります。

カスタマーサービスチームのリーダーは、これを基に自社の製品やプロセスの改善案を提示できます。そうすれば、顧客のニーズを軸にした、部門をまたいだコラボレーションが可能になります。Dyson自身も、かつてカスタマーサービスチームのリーダーを務めていたときに、ソフトウェア統合の改善案の妥当性を裏づけるために、そうしたデータを活用していました。

AHTは、必ずしも短い方がよいわけではないという点にも注意が必要です。いったいどういうことでしょうか。

場合によっては、AHTを短くしてもプラスに働かないこともあります。たとえばZapposは、顧客対応の時間を厳しく制限しておらず、オペレーターと顧客は、それぞれの近況やその日の予定などについて気軽に話をしています。

これは本来の目的である問題解決にはなっていませんが、顧客との関係強化につながっています。Magnoliaも似たような方針で、顧客対応の約半分は「体験」と呼べるようなものです。顧客のおよそ半数が、自分の経験を聞いてほしい、あるいはちょっとした挨拶を交わしたいと考えていて、これは、顧客がブランドとの強いつながりを感じていることの証でもあります。

また、CX業務が社内全体で改善されると、AHTが長くなることがありますが、これは決して悪い兆候ではありません。セルフサービス型のサポートコミュニティAIを活用した自動化を巧みに取り入れれば、顧客がオペレーターを必要とするのは、より困難な問題のときに限られるようになります。難しい問題への対応は時間がかかるものであり、AHTが長くなるのも当然です。

どんな指標もそうですが、AHTを単体で捉えずに、サポート業務の全体像を示すいくつもの指標のうちの一つだと考えることが大切です。

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